青森と南北海道の民話
日常の言葉
 函館から恵山寄りの下海岸の人々は、津軽海峡に面した下北半島の山々を「向かいの山」と親しみを込めて呼ぶ。
 昔は有数のイワシの漁場だったから、津軽・下北から渡って来て漁業に従事したり、ヤドイ(雇われ漁夫)として近辺に落ち着く人が多数いた。
 1926年(永仁4年)函舘市石崎町に日持上人が来て庵を結んだと伝えられる通り、道南では比較的古い時代から和人が定着していた。
 下海岸地域と、海峡を隔てた対岸地域(津軽・下北)とを比べると、多くの類似点がある。
 同地域は、海岸方言(浜言葉)の最も強い場所と言われている。津軽や下北の方言の色彩が濃厚である。
 一例が子供の呼称で、赤ん坊のことを「アカ」「ピッキ」などと言い、五つ六つになると「ワラシ」「ワラサド」と呼ぶ。

 男の子が女の子への蔑称として「オドコメッケ」などと言うが、これは「男みたいな女の子」の意味だ。
 他の親族の呼び方も、下海岸と津軽・下北とで共通している。
 例えば祖父母は「ジッチヤ」に「バッチヤ」。父母は「オド」「オドッチヤ」と「カッチヤ」 「ガガ」「アッチヤ」であり、長男は「アニ」「アンチャ」、二男・三男を「オンジ」「オンチャ」、長女を「ネネ」「アネッチャ」、二女を「オンパ」、末っ子を「バッチ」「バッチコ」などと呼んでいる。

 海峡を挟んだ人たちはそれぞれ、生まれも生活体鹸も違うのに、言葉ばかりかイントネーションやしぐさまで似ていて、驚かされることが少なくない。
 少なからぬ数が、対岸に残る民話と共通している。

 民話は方言とは切っても切れぬ関係にあり、今なお多くの民話が語り継がれていることは、彼らが幸せな人生観を持ち、精神的なゆとりがあるからにほかならない。
 豊かな方言の生活が支えているからだ。

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