江差の繁次郎ばなし
 適南において、笑い話の主人公はほとんど、「江差の繁次郎」に代表されるといっていい。
定かではないが180年ほど前、江差で生まれた繁次郎は五尺(約150センチ)足らずの小男で頭、目、鼻がべらぽうに大きく、女好きで大飯食らい、酒よしぽたもちよしの両刀使いで、とんちがきき、機転のきく人物だったそうだ。
 一休さんのような具体的イメージか存在し、漁民などに伝承されたおどけ者ばなしの主人公である。
 これらの話は津軽の西海岸や近くの稲作地帯、下北にも伝承されている。
 「江差の五月は江戸にもない」と言われたほどにしん漁で賑わった頃に、北海道に渡った漁業出稼ぎ者が漁場で聞いて帰り、故郷で語ったものだ。
 
 日常どこにもありそうな笑い話が誇張され人から人へ、村から村に伝わり、繁次郎ばなしを形成していったものと考える。
 仕事、生活上の苦しさを、笑うことによって多少とも解消し、活力を得たものであろう。
 江差では、「繁次郎みたいな人だ」というたとえ(比喩)があり、これはとんちのいい人をさしている。
 昔、村人の生活は貧しかったが心の豊かさがあり、大抵のことは大目に見るゆとりがあった。 今日の人々の生活は比較にならぬほどに贅沢になったが、昔の人に比べればゆとりかない。なんでもお金にたとえて心がすさむ。
 1987年(昭和62年)の夏、日本海を背にキセルを持った繁次郎像が建立された。
 国道227号線の眺めのよいところでドライバーに愛きょうをふりまいている。
 心にゆとりを−。
青森と南北海道の民話
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