■ヨツコ取った−寝小便のたとえ たとえ(比喩)は日常生活の場で使われることによって、人間関係を豊かにし、円滑にする。 多くの巧みなたとえによって、思わず人の笑いを誘い、世の中を明るくする。 この地域のたとえには、親子や夫婦など、人間関係にふれたものが少なからず認められる。 お年寄りが集って、話に花が咲くのは子供の話であり、自分の子供、とりわけ孫となると可愛いもので、「目にゴミが入ればいずくなるけれどもかわいいものなら目に入れてもいずくない」という。 その孫が寝小便すると、江差の漁師町では、「アキアジ取った」「ヨツコ取った」というが、アキアジもヨッコもサケのこと。 ふとん干したりすると、「だれそれ、ヨツコ取ったな」という。 松前の江良でも「ヨッコ取る」といい、上ノ国町では「イワシ取った」といって、ニシンやイワシ漁の盛んであった時代の名残りがある。 福島町や戸井町では「マグロあがった」「マグロ取った」という。 |
「オラ家の大きだ孫、マグロ取りだ。一晩に二本も取る」「どんなマグロだ」と問えば 「くせぇマグロだ」といって笑う。 津軽では「カレイ取れだ」「マスァあがった」という。 子供か火をいたずらすると寝小便するというので、しつけの意味で「火いじればマス取る」と注意する。 川の増水を川増しというが、なまってカワマス、マス取るはふとんが川増しになる意味。 それから転じて鱒(ます)を取る意味にも解された。 南部の野辺地町でも「シビ(マグロの成魚)あがった」と表現する。 たとえば、その土地に密着した独特の色合いや心がこめられていて、それぞれの生活の場において生き生きと用いられ、人が生きていくための知恵となっている。 道南の江差町、上ノ国町、福島町、戸井町などのたとえは、海峡を隔てた対岸の津軽・下北と類似していて、多くの共通点がある。 このたとえにより、その土地土地に息づく人情の機微をうかがうことができ、興味深いものがある。 |
青森と南北海道の民話 |