■生まれつつある民話 昔ばなしは家庭内の伝承として爺様婆様の口から語り継ぎ、子や孫に聞き継いで保存されてきた。 女性の働きが大きく、婚姻の移動による昔ばなしの伝播が広まった。 津軽海峡に面した道南の海岸では、対岸の青森県から嫁が来たとき、「ショツパイ川を渡ってきた」と海峡を川にたとえていう。 津軽衆・南部衆・秋田衆などとそれぞれの地方出身者のことをいい、かつて同郷人が集落をなして住んでいた。 こうした社会では婚姻も、部落内か、さもなくば出身県から嫁を迎えることが多かった。 通婚圏の調査によれば、福島町白符では明治以来の123例中18人(14.6パーセント)が津軽から、下北からは6人(4.9パーセント)その他を入れると29人(23.6パーセント)の嫁が青森県から嫁いできている。 戸井町瀬田来では11.7パーセントの比率である。(昭和63年現在) 道南では昔ばなし採集が少なく、話しの内容から見ると、津軽・下北に伝わる昔ばなしに比べて短絡化がめだち、モチーフの脱落があり、話しがやせ細っているようである。 語り手によって、最も印象深かったことのみ覚えていて筋を追うかたちとなっている。 他の地域と同様、昔ばなしは急速に失われつつある。 |
昔ばなしを憶えていたお年寄りが少なくなったこと、また、かって子供たちに昔ばなしを語ったことのある人たちの記憶の中から消え去ろうとしている。 子供も昔ばなしよりテレビを楽しむようになった。そのため次代に受け継がれていない。 子供がお年寄りから昔ばなしを聞く機会が減った代わりに、小学生の間に口こみで流行している「トイレの花子さん」のような学校を舞台としたうわさ話や怪談が広まっている。 高校生になると、学校(トイレ、体育舘、理科室、音楽室など)家庭(死の知らせ、夢など)地域社会(車、トンネルなど)と対象も広範囲にわたって話しの種になる。 高校生が語る現代民話として生活の中に息づいている。 「青森は津軽海朕をへだて北海道に対するが、海峡が昔話の伝播にどれだけの抵抗線となっているか。北海道にどれだけ本土の昔話が浸透していったか、まだ十分にあきらかにされていない」 (『青森県昔話集成』序文、関敬吾)などの問題を解き明かすためにも民話の採集はなお続けるべきである。 人々の生活あるところに伝承がある。今ならまだ可能だ。 本稿は、青森県と道南の民話を地域別に掲載、民話を味わい深く伝えるため、すべて話し言葉で書き、お年寄りの独特な語り口や方言がそのまま生かされるようにした。 北海道みんぞく文化研究会 函館大妻高等学校教論 久保孝夫 |
青森と南北海道の民話 |
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