「心の豊かさ」を考える

(東奥日報新聞「明鏡欄」掲載:2021.11.8)

  中学時代の恩師の奥さんから短文の手紙が届いた。私が投稿した「明鏡」を読んで感動、嬉しかったという。それは「・・・それもこれも妻の健康委が前提である」という一文にあった。私が中学校を卒業したのは1956(昭和31)年である。恩師は若き音楽教師、生徒達を引っ張っていくというより、寄り添う型の教師であった。
  私は、手紙を頂いたうれしさに早速妻を同伴、恩師宅を尋ねた。恩師が亡くなった時以来の訪問である。奥さんは92歳、歩行困難、買い物はヘルパーの方へ依頼するという。驚いたのは同期の生徒達の記憶が鮮明なことだ。そして、寂しく悲しいことも聞かされた。「・・・さん、2年前に亡くなったの」。別れ際、「奥さんを大事にして下さい。もう10年は頑張って人生楽しんでください」。激励に行ったつもりが逆に激励された。とても穏やかな姿に心の豊かさを感じた。
  老人医療に力を入れるフレディ松川病院院長は著書「老後の大盲点」に次のように記している。心の豊かさとは、人間が本来持っている、優しさ、愛情、自己犠牲などに価値を感じることである・・・。老後、穏やかな生活を望まない者はいない。恩師宅訪問で主体的、利他的に生きることの大切さを痛感した。