子どもに寄り添う力

(東奥日報新聞「明鏡欄」掲載:2021.2.10)

  「法学テキストの読み方」という冊子に社会で活躍する上で重要な資質として次の様な記述に出合った。
  @自分の立場や利害に固執することなく、相手の立場や利害にも思いを致す様な考え方をすることが重要(立場の互換性を持つ)。
  A一方からばかり見るのではなく、異なった見解にも耳を傾けて、多面的に考察出来るだけの柔軟性を持つことが大切です(複眼的思考)。
  これは子どもと親、教員と生徒との関係性についても当てはまる話ではないだろうか。
 
  思い出すのは、1992年6月4日、学生達に慕われ人気の高い高校教師が命乞いする我が子を刺殺する事件である。子どもが母親に手を挙げる様になり、エスカレートしていったことが原因であった。
  殺す前に、なぜ、母に暴力を振るうのか、と子どもに寄り添うことがなかったのか。この一点があれば本件は防げたのかも知れない。
  ところが、その一点が難しい。常日頃自分の言動は間違っていない、と思い込みの強い人間にとって@Aの視点が弱いと考えられるからだ。本件は、「立場の互換性」「複眼的思考」があれば防げたのではと悔やまれる。
  現在では「殺人」が「個性潰し」に変容して理解出来るのでは。見た目は全く異なる。が、幸せを奪うという点で共通するからだ。