東京大衆歌謡楽団
(東奥日報新聞「明鏡欄」掲載:2021.3.29)
人生を顧みる懐メロ。その魅力を改めて感じた。私は、「東京大衆歌謡楽団」の存在をYouTubeで偶然知った。4人兄弟で3人が演奏、1人が歌う。他に、ギターと小太鼓を演奏する人が共演。
樹木が茂る浅草神社境内での演奏会。演奏、歌、聴衆が一体となって醸し出す情景。なんと表現したら良いのだろう。演奏曲目は全て懐メロ、懐かしいものばかりだ。それにしても心に響く。「懐メロは、歌詞がいい。メロディーがいい」という楽団のリーダー。
聴衆は中高年層が多かったろうか。手拍子、足拍子、体を揺らして曲に合わせる者。涙ぐむ者、物思いに耽る者。懐メロにどんな思いを投影しているのであろう。聴衆はすっかり懐メロに酔いしれていた。
加えて、日本人の心の鏡の様な光景が映し出されていた。演奏者の前に設置された逆さにした帽子。チップを差し入れる人が次々と後を絶たない。中でも80代後半と思われるおばあちゃん。杖をつきながらチップを差し入れする姿に心を打たれた。
人々はどんな思いで家路へとついたのだろう。東京大衆歌謡楽団演奏と聴衆が一体となって醸し出す情景は、明日を生きる活力を与えてくれた。一歩一歩前に進む勇気を貰った。