言葉の力と内面的価値

(東奥日報新聞「明鏡欄」掲載:2020.6.2)

 自粛とは「自発的隷従」を求めるやり方だ(東奥日報「読者インタビュー」杉田敦法政大学教授)。この様な言葉は、終活にさしかかり初めて聞く。社会の試行錯誤が続いている。こんな時世には、言葉の力が身に染みる。そして、内面的価値、すなわち愛情、共感力、信頼などが求められている気がする。
  夏の甲子園の中止。東奥日報5月21日付朝刊に、三沢高校元投手・太田幸司さんのメッセージが掲載されていた。「『試練』を乗り越え前へ」の見出し。中でも「前を向いて次のステップに進むことは、甲子園に出場するよりもずっと価値があります」と。内容は、子ども達の教科書にそのまま載せたい様な寄稿文である。また、不確か、不透明な時代にあって、大人達にも大きな勇気を与えてくれる。
  私の孫は青森県立聾学校へ通う。同校へ送迎、運動会、学園祭などを通じて感じるのは、彼等彼女等の内面的価値の高さである。
  健常者の自粛は新型コロナウイルス禍に伴う初体験。聴覚障害の自粛は、社会構造に伴う生まれた時からの体験。この違いが、聾の子ども達の内面的価値を高めているのかも知れない。コロナ禍は、一人一人の内面的価値を問うている様な気がする。より強く、優しい生き方を求めている様だ。

以 上