1千億円産業の行方

令和3年産の本県りんごの販売額は8年連続1千億円を超えた。まさに素晴らしい実績である。

本県りんごは1千億円産業だと言われているが、この大台を超えたのは平成の年代になってからである。平成元年からの10年間の中で6回超えている。しかしその後15年間は大台を超えることはなかった。生産者の減少、それに伴う栽培面積の減少や社会情勢の変化によって、今後は1千億円を超えることは無理なのだろうと囁かれていた。それがこのように連続して超えるようになった。これは低価格や自然災害、病害虫の発生など辛い中でもりんご生産を諦めなかった現在の生産者や、様々な問題に対応してきた研究指導機関、移出関係者の努力の成果である。りんご関係者みんなで大きく胸を張っても良いだろう。

本県は日本一のりんご産地であるし、日本一の果実生産県でもある。青森りんごは我が国のすべての果実の牽引車にならなければならない。

またりんごは本県経済にも重大な影響力を持っている。生産者はもちろんだが関連する産業や地域経済にも多くの影響を与えてきた。ただ、近年次第に弱っている農村や農業者の現状を、みんなが理解しているだろうかと心配になる。

近年はりんご産出額が販売額以上に好調である。

平成の初めころは600億円くらいだったが、近年は800億円超える年が多い。農家戸数が減少している中でこれだけ上向いていることを喜んでいる。農業センサスが実施された平成2年と令和2年を比較してみると、りんご農家の戸数は30年間で45%まで減少している。少し荒っぽい方法であるが、この年の産出額を農家戸数で割ってみると令和2年は平成2年に対して1戸当たり3倍の値がでる。必ずしも生産者の収入が3倍になったということでないだろうが上向いていることは確かだろう。

以前は販売額が上がっても農家は潤うことはないという恨み節も囁かれていた。現実に小売価格の3分の1が農家手取りだという統計もあった。仮にその半分が所得だとすると6分の1になる。しかし近年は大きく改善された。それでも生産者に潤い感はない。これは生産コストの上昇が大きいためと思われる。農薬、肥料、雇用労賃、農機具費などは大きく上昇している。好況に浮かれていないで、これらの対策を急ぐべきである。

農家戸数が大きく減少している中でも、生産量は大きな減少をしていない。これは農家個々が経営規模を拡大し、生産技術を改革して単位の生産量を向上させている証である。まさに青森県りんご生産者の努力の結晶である。

ただ、このまま続くとは思われない。農村の環境が大きく変わり、作業者の確保が面倒になっている。以前は我が国固有の品質を確保していればグローバル化しても対応できると思っていたが、最近は我が国固有の品質を維持することが面倒になっている。

ぎりぎりの営農をしている生産者に、これ以上のことを求めるのは無理である。もう少し経済的にも、時間的にも、精神的にも余裕のある経営ができるように改善しないと、ますます離農が進む。

作業者の確保をどうするか、農業者の数は限られる。余裕を持った作業体制でどのような品質のりんごを目指すか。経営規模や、作業形態に合わせた園地の改良やりんご樹の改善も必要だろう。そのような対策の上で生産されたものをコストに見合うように販売するのはどのような方法があるか。前年踏襲では解決しない大問題である。農業者だけで解決できない。本県のりんご産業を守るために、行政も関係業界も一緒になって取り組むべきである。この問題を解決できないと、若い生産者は育たない。

令和5年は難問解決へのスタートの年になってほしい。

過去にも多くの苦難がりんご産業を襲った。それを解決のために全ての関係者が努力し、常に情報交換して解決の糸口を見つけだしてきた。150年にわたり先人たちが歩いてきた道である。1千億円産業を守るために、また新しい第一歩を始めよう。