身近の生き物森林害虫シリ−ズ(U−1)                                                                         2001415

                                                                 バックナンバ−の目次へ

森林害虫シリ−ズ(U) 「とびくされ」-1

第2のマツクイムシともいわれ林業家にとって深刻な害虫 となっている「スギノアカネトラカミキリ」を紹介します。


スギ・ヒバ・ヒノキなどの製材品に現れる重大な欠点の一つに写真のような「とびくされ」(地方によって「ガニ腐れ」「ボタン」などとも呼ばれています)と言うのがあります。
この「とびくされ」の特徴は節を中心に顕れる変色(スギで顕著)や腐朽です。
天然ヒバや樹齢60年以上のスギ林を伐採してまとまった収入をもくろんだ林業家の収入が素材(丸太)の段階で買いたたかれて期待した収入の半額にも達しなかったとなれば大変なショックだと思います。ところがこんな現象が各地で起きているのです。

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                      ヒバ材(柱材)の表面に顕れた「とびくされ」

上の写真は材木屋さんで見かけた「とびくされ」の写真です。この様な欠点が顕れた材は部屋の造作材には使用できませんし、もし見えるところに使用したとすれば注文主からクレ−ムが付くのは確実でしょう。この欠点が材価低迷の要因になっています。

右の写真はある国有林の現場で販売のため入
札にかけたのですが一番玉(ある長さに玉切りしたときの根本から一番目の丸太)から「とびくされ」が顕れていたため落札者無しに終わった物件です。
樹齢60年を超えて太さも十分あり、本来ならば高収入が期待されていました。
しかし、伐採してみると金太郎飴のようにどの切り口にも赤黒い不定形の変色があり当然柱材などに加工された場合材の表面に変色や腐朽が顕れる可能性があります。
無節・無欠点・柾目を珍重する日本間では造作材として致命的な欠陥となるでしょう。
                                             買い手がつかなかった被害丸太
結局この木材は「劣材割引」の対象となり、当初のもくろみ価格より大幅に割引販売されたようです。何故このような欠点が発生するのでしょうか?

変色部分を詳しく観察してみますと、変色の他に虫の食痕が見られます。変色部分を削ってみますと幼虫が入っている場合もあります。
    
        左:被害部の中の幼虫          中:幼虫全形              右:交尾中の成虫

左の写真は「とびくされ」部分(変色部)を削ってみたものです。
節の周辺に中糞が詰まった食痕が見られ、節の左側には幼虫も見えています。
とびくされの原因が虫害によるもので、その主犯が体長11mm程度のカミキリムシの一種「スギノアカネトラカミキリ」(写真右:交尾中の成虫)によるものであることが明らかにされたのは1956年のことでした。
宮城県の被害地を訪れていた当時の林業試験場(現森林総合研究所)研究員だった故木村重義氏らが「とびくされ」の実態調査中に被害材の中から一頭の生きたカミキリムシの成虫を発見したのでした。
この成虫は「スギノアカネトラカミキリ」と同定され現在に至っていますが当時は採集例の少ないいわば珍品扱いのカミキリムシだったようです。
在職時代被害材から脱出したばかりの新鮮な個体を得るため、6トントラック1台分の被害材を購入しましたが得られた成虫は20頭程度でした。
その後、調査が進みますと植栽されてから50-60年以上経過して収穫期を迎えたスギ人工林では各地でこの「とびくされ」被害が問題視されていることが判りました。
ヒバ、ヒノキからもそれぞれ成虫が得られ、主要な建築材であるスギ・ヒノキ・ヒバの共通の害虫であることが確認されました。
樹齢100年以上の天然ヒバや天然スギの太い素材(丸太)でも中心部に近い(若い時代の)部分に「とびくされ」の被害がみられることがあります。すなはち、昔から「とびくされ」の被害があったのです。
被害が顕在化しているのは東北地方各地をはじめ、関東地方でも関西地方にも被害が発生しています。                      ヒバ材から脱出した成虫

「とびくされ」の被害の特徴は「マツクイムシ」の様に被害を受けても木を枯らすことはないのです。被害部位は枯れ枝(死に節)ですから樹木の生長にも影響はほとんどありません。
ただ節の周辺に幼虫の食い進んだ坑道が穿かれ、材内で成虫になったカミキリが羽化するとき外界に通ずる脱出口が出来ますので雨水の侵入口になったり菌類の感染路になったりします。この様にして材の腐朽が進む一方、樹木自体の生体防御反応的な生理作用によっても変色が進みます。腐朽箇所や変色は一度できると消えませんし、被害が年々繰り返されると伐採されるまで変色や腐朽箇所が増加・蓄積されることになります。スギやヒノキの生長が良ければ比較的早い林令で伐採されますが、厳しい環境で成長の緩慢な地域では収穫(伐採)されるまで長い年数が掛かります。 
     成虫の脱出口
木の成長と共に被害を受けた死に節は巻き込まれて写真右のように材の中に埋め込まれてしまいます。この様な被害は樹の表面からは全く見えなくなっています。
したがって、製材されて初めて顕れる古い被害箇所です。
最近は建築現場へ行ったもほとんど見られませんが、以前は大工さんが建築材料の1本1本の面を吟味しながらこの様な欠点が見える場所に使われないように気を使いながら墨付けをやっている風景が見られました。
この様な「とびくされ」の被害を出さない、見せないのが伝統的な日本の林業技術であり、建築技術であったように思われます。
しかし、現代のようにコンピュ−タ−制御によるプレカット方式では予期しない場所にとびくされの被害が顕れるかも知れません。
最近の建築様式では輸入材中心の大壁方式でクロス張りが主体になっていますので家の中でこんな「とびくされ」の被害を目撃することはほとんど無いと思われます。
ある有名なヒノキの銘木市場でもずらりと並んだ銘木倉庫の隣には「とびくされ」の被害材が沢山積まれていました。
                                           材中に埋もれた被害箇所

次回以降は「とびくされ」の原因をつくる「スギノアカネトラカミキリ」の生態とその被害の防ぎ方について述べてみたいと思います。

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