身近の生き物森林害虫シリ−ズ(2)
                                             2000.12.25.

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森林害虫シリ−ズを始めるに当たって

本格的な雪の訪れと共に外の生き物を探し歩くこともままなりませんので、来年の春まで古いスライドを中心に在職時代の仕事を振り返ってみたいと思います。

シリ−ズの手始めに「マツクイムシ」を数回に分けて取り上げてみます。

                  「マツクイムシ(その2)」

  

上の写真は盛岡市(森林総研東北支所構内)で行われた屋外での産卵実験の結果です。
当時(1976年)も現在(2000年)も盛岡市には「マツノマダラカミキリ」は棲息しておりませんが、もし「マツクイムシ」が「北上を続けて盛岡市に入ってきたらどうなるのか?」を想定して恒温槽で飼育して成虫になった「マツノマダラカミキリ」を屋外の網室に放して産卵実験を行いました。
左右の写真は実験年度が異なりますが、略同じ結果が得られました。

左の写真は屋外の網室で羽化(幼虫の越冬も屋外)した成虫にそのまま産卵させた例で、11月以降に樹皮の食われ方を比較したものです(産卵用丸太の供試は 7月22日から 1週間毎)。
褐色の樹皮がほとんど残らずに食われているのは 3本だけです(左から2−4番目まで)、すなわち3週間内(7月29日-8月20日まで)に産卵された丸太だけで7週目(9月3日-11日産卵)以降の丸太では樹皮がほとんど残っています(産卵は 9月24-10月 1日、10番目の丸太まで認められました)。これは孵化してもほとんど育たないか、卵が孵化不能だったことによるものです。

右の写真は恒温糟(25℃)で育てた成虫を屋外の網室に出して1週間毎に産卵させる丸太を入れ替えて実験した例です。7月中旬頃までに産卵され、孵化した幼虫は越冬時までに十分な大きさに育ちますが、7月下旬以降では産卵時期が1週間遅れることによって幼虫の育ち方が不十分だったことが判ります(産卵日毎に平均体重に相当する個体を並べています)。

この様な実験を参考にいろいろな温度条件下で「マツノマダラカミキリ」の飼育実験を行った結果、左の写真の様に孵化して間もない幼虫を12℃の温度条件で飼育しますと幼虫はほとんど餌を食べることもなく、越冬の準備に入ってしまいます。

この様な飼育実験幼虫や卵が発育する最低の温度条件「発育限界温度」が理論的に計算されました(研究者によって計算結果が少し異なります)。私の飼育実験の結果から「マツノマダラカミキリ」の「発育限界温度」はほぼ13.0℃付近にあるという結果が得られております。

「発育限界温度」が計算できますと同時に「有効積算温量」も計算できます。

左の表は「マツノマダラカミキリ」の各発育段階について計算された結果です。この表によりますと「発育限界温度」の平均は13.1℃、「有効積算温度」の合計は1013日度という結果になっておりますが、便宜上13.0℃、1,000日度という数値を用いております。

すなわち、1日の平均気温から「マツノマダラカミキリ」の「発育限界温度」13.0を差し引いた残りの温度を積算して1,000日度以上の温量があれば「マツノマダラカミキリ」は1年1世代の普通の生活環が成り立つだろう。という予測が出来ます。

この様な考え方各地のアメダス観測地点の気象月報デ−タから次のような作図を考えてみました。例に出したのは青森市の平均気温(1955年-1980年まで25年間)をもとに作図して例です。

この図では東北支場構内(盛岡市下厨川)の平均気温と比較していますが、青森市の「有効積算温量」は831日度に過ぎません。
「マツノマダラカミキリ」が交尾・産卵活動が可能な温度条件は20℃いじょうだといわれております。青森市で平均気温が20℃を超えるのは7月中旬〜9月上旬の間だけです。
夜行性昆虫である「マツノマダラカミキリ」にとって夜間の温度は更に厳しいことが予想されます。
図の下方には累積曲線に縦の線が記されていますが、推定される「マツノマダラカミキリ」の50%羽化日を示しています。


この図から青森市内に「マツノマダラカミキリ」が侵入したとしても成虫の50%羽化日は8月5日頃で、さらに卵巣が成熟して産卵可能になるのはお盆過ぎ、8月中に孵化できたとしても急速に温度が低下する野外では孵化した幼虫の成長も不十分なまま越冬を強いられることになりそうです。したがって、青森市内には「マツクイムシ」の被害が蔓延する可能性は当面無いだろうと予測されています。

次回は温量分布図から見た東北地方における「マツクイムシ」被害の蔓延の可能性について述べてみたいと思います。

                      
「マツクイムシ(その1)その3)(その4)(その5


友人のHP

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青森の水環境:始まったばかりのHP、青森県内各地の水環境が画像と共に紹介される予定(蝦名憲氏)

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トンボのリストへ青森市内で記録されたトンボの記録です(’99.7.〜’00.9.まで)

              

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