身近の生き物森林害虫シリ−ズ(1)
                                             2000.12.24.

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森林害虫シリ−ズを始めるに当たって

本格的な雪の訪れと共に外の生き物を探し歩くこともままなりませんので、来年の春まで古いスライドを中心に在職時代の仕事を振り返ってみたいと思います。

シリ−ズの手始めに「マツクイムシ」を数回に分けて取り上げてみます。

               「マツクイムシ(その1)」

  

最初の写真はほとんど全山真っ赤に枯れたマツ林です。茨城県下で撮影。
日本におけるマツ枯れの被害は古く、「明治末期(明治38、39年)の頃、長崎市周辺のマツが大量に枯れ出したので調査したが、昆虫類の寄生が確認できたものの、それが原因かどうかは明らかに出来なかった。」という記録があるそうです。
また、応永12年(1405年)には春日社頭木5,6千本が枯れ、翌年にも春日山2千本が枯れた。などの記録もあり、各地に断片的なマツの大量古損の記録が残されているようです。
その後もマツ枯れは収まらず、研究も続けられて来たのですが本格的な研究が始まったのは、ごく近年(1965年以降)になってからで、1970年「
マツノザイセンチュウ」の病原性が実証された以降になります。
「マツノザイセンチュウ」と密接な関わりを持っているのが2枚目の写真の「
マツノマダラカミキリ」です。マツを枯らす主犯格は「マツノザイセンチュウ」ですが、体長1mmにも満たない「マツノザイセンチュウ」は「マツノマダラカミリ」によって枯損木から運び出され、生きているマツに伝搬されます。

  

「まつくいむし」の被害と言うのはは一般にこの様に「マツノザイセンチュウ」や「マツノマダラカミキリ」などによって枯れたマツのことを指しますが、「マツノザイセンチュウ」の寄生によって生理的に異常となったマツには見かけ上青い葉が残っていても上の左にあるような「マツノマダラカミキリ」による産卵の跡(画面の上下に見られる横の噛み傷)がたくさん見られるようになります。

この産卵跡の樹皮の中には普通1個の卵が産み付けられていて産卵から10日前後で幼虫が孵化します(上の中)。孵化幼虫は内樹皮(樹皮の白い部分)を食べてどんどん大きくなります(右)。

樹皮を食べて十分成長した幼虫はやがて材の中に穿孔して蛹になる部屋をつくります。
蛹になる部屋が完成すると左の写真にある様な木屑で入り口に栓がされます。普通この様な状態で越冬に入ります。
この時期の幼虫は
休眠幼虫ですので取り出してそのまま温度の高い状態においても餌も食べないし、蛹になることもありません。
冬の間、蛹の部屋で過ごした幼虫はやがて休眠から覚めて春の暖かさを感じるようになります。
一定の暖かさ以上になりますと徐々に蛹になる準備が始まり、やがて幼虫から蛹への変態(脱皮)が起こります。

 

写真の左は変態して間もない「マツノマダラカミキリ」の蛹です。柔らかい蝋細工の様な蛹ですが、数日で目や口に色が付き10日ほどで脱皮して成虫への変態が完了します。
右の写真は材の中に造られた蛹室の断面ですが、画面の下方に見える楕円形の穴が幼虫が穿孔を始めたときの穴(材入孔)です。蛹室(蛹になる部屋)は材入孔よりも上の方に造られ、
完成すると噛み砕いた木屑がびっしり詰められて入り口が塞がれます(右の写真右側半分)。
上の方には蛹室の中で成虫になった個体(カミキリムシ)が写っています。

蛹室の中で羽化(成虫になること)した成虫は数日間そのまま蛹室内に止まっていますが、やがて鋭い歯で丸い脱出孔を開けて外界に飛び出します。

他の研究によりますとこの羽化してから外界に飛び出すまでの数日間に枯れたマツの中で爆発的に殖えていた「マツノザイセンチュウ(耐久型幼虫)」が数千頭〜数万頭の規模で「マツノマダラカミキリ」の体に乗り移る(大多数は気管の中)のだそうです。

外界に飛び出した成虫は卵巣も精巣も未成熟なので健康なマツの枝の樹皮を囓りながら交尾・産卵が出来るまで移動します。この間に「マツノマダラカミキリ」に乗り移っていた「マツノザイセンチュウ」はゾロゾロと這い出して囓られた樹皮の傷口にこぼれ落ちます。

囓られたばかりの樹皮は傷も生々しく松ヤニがにじみ出ています。こぼれ落ちた「マツノザイセンチュウ」はこのヤニの中に泳ぎだしてヤニを出している細胞の中に潜り込んでいきます。
そしてマツの樹体内部に潜り込んだ「マツノザイセンチュウ(耐久型幼虫)」は脱皮して成虫となり、交尾・産卵を行い、わずか数日で世代を繰り返しながら増殖していくのです。

やがて、「マツノザイセンチュウ」の寄生を受けたマツは生理的な異常を来し、樹脂(松ヤニ)の分泌能も止まり枯れてしまいます。この間わずか数十日間の出来事だと言われています。

枯れかかったマツが生じた頃には「マツノマダラカミキリ」の卵巣も成熟して生理異常を起こしているマツにはたくさんの「マツノマダラカミキリ」が集まってきて交尾・産卵が行われます。

以上が「マツクイムシ」の一般的な生活環ですが、東北北部ではこの一般的な生活環が成り立たないようです。
次回以降で私が直接関わった研究内容を振り返ってみたいと思います。


                   
「マツクイムシ(その2)その3)(その4)(その5

 



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