北帰行

1.

一羽 また 一羽と 大きな翼を広げて
白鳥の群れ 北の空へと羽ばたいてゆく

その鳴き声は 甲高く
向かうは 海を越えて シベリアの大地
水ぬるむ頃は 渡りの合図

2.

羽ばたくも 羽ばたくも 折れた翼に力なく
いつまでも空を捕まえられない 手負いの白鳥

絆深き仲間の 白い影は 
雪解けと共に 青い空へ溶けていった
東風吹く頃は 旅立ちの合図

3.

走れども 走れども 水面を蹴る助走は弱く
いつまでも仲間を追えない 手負いの白鳥

飛来地の隅で 佇む姿は
いつまでも消えない雪のよう

空っぽの里に木霊(こだま)する 一羽の悲しき鳴き声よ
渡りのルートを飛び越えて 遥か故郷のシベリアへ届け