石垣

1.

瞼をそっと閉じれば
カラカラカラ
埃を被った映写機は廻る

小さなスクリーンに映るのは
下北の海 釜臥の山
そこにいる幼き頃の僕
あの頃はまだ
家の前の石垣が ずいぶんと高く見えた

2.

瞼をそっと閉じれば
カラカラカラ
古ぼけた映写機は廻る

石垣をよじ登るたび
ほんの少し近づいた雲に
大きな夢を乗せて
空を仰ぎ 飛ばしたシャボン玉は 
虹色に輝き 太陽と重なりパチンと割れた

3.

瞼をそっと閉じれば
カラカラカラ
記憶の奥に眠る映写機は廻る

ねずみ色の空から 舞い降りる真っ白な雪
一夜明けるたび
家の前の石垣は低くなり
そりで遊ぶにはちょうど良い滑り台へと

4.

瞼をそっと閉じれば
カラカラカラ
積み重ねた記憶 折り重ねた記憶
あの時の忘れ物を取りにきたように

誕生ケーキのロウソクが一本増えるたび
石垣は僕の肩を降りていった

目に映る景色は 少しずつ変わってゆく
これからも つまずき転び
昇り続けるラセンの階段
足元の石垣を見失うことなく