naca npo法人アートコアあおもり
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昭和通り広告主CMプロジェクト

住中浩史

略歴
1977 広島市生まれ
2000 明治大学商学部卒業

2006 青春ロードムービーワークショップ(東京都荒川区立第七中学校)
    路地琴プロジェクト 〜音で彩る下町景色〜(東京都墨田区向島地域)

アーティストのステートメント

昭和通り広告主CMプロジェクト

自分は、地域や学校など日常の生活を暮らしている人と関係をつくりながら、その関係においてデキゴトを生み出す活動をしています。
今回、青森市昭和通りに滞在しながら、商店街の人達と関係をもつ中で、商店主達のそれぞれのこだわりや想いに強く惹かれ、その関係の中でプロジェクトを行うことにしました。
商店主との関係の中で、郊外大型店と違い中心商店街は店主の店に対するこだわりや積み重ねた歴史そのもの、つまり人がお店の魅力であると考えています。
このプロジェクトは、昭和通りの五店舗(ナンデモヤ・BON美容室・イクロス・パドゥ・渡辺時計店)にその商店主のこだわりや、お店の歴史、昭和通りへの想いを、街行く人に伝えるため、商店主へのインタビュー映像をそのお店の目の前、店内にそこに映る商店主がいる前で上映します。
プロジェクトの過程で、全店員にお店にまつわる、お店についてのこだわりや接客の姿勢、個人的趣向などを尋ねたアンケートを元にしたイメージ映像・CMがインタビューの合間に入ります。
また、人は自分が人に話した言葉の内容を、より強く意識してしまうという傾向があります。そしてこの傾向はパブリックな場で言葉を発した場合より強くなります。
そういう意味で、このプロジェクトは外にメッセージを伝えるだけでなく、お店への熱い想い・こだわりを言葉にすることで商店主自身に再認識してもらいたいという、商店主を対象としたプロジェクトでもあります。

 

住中浩史 昭和通り商店主CMプロジェクト
黒岩恭介

今回の一三人の若い作家たちによる青森市中心商店街を舞台にした様々な取り組みの中で、僕が最も惹かれたのが、彼のプロジェクトであった。メインは会期後半のCMプロジェクトであるが、その前に住中は青森の祭『ねぶた』を題材にした展示とパフォーマンスを行った。照明と電話ボックスでのパフォーマンスは見ていないので何とも言えないが、『ねぶた』の衣装を展示したインスタレーションは、確かに眼にした。地元の人たちにとっては、あまりにもそのまんま、ということもあり、「なによこれ」と不評を買っていたようだが、色とりどりの衣装が実際どういうものか知らない僕にとっては、実用を離れ、客観的な布地としてぶら下がっているところは、すごく新鮮であった。インスタレーションのタイトルは、「色々と、永遠に続くでしょ」というもので、これは青森市の全国的に知れ渡っている『ねぶた』を冷やかしているのか、それとも地域の祭り自体の伝統が紆余曲折を経ながら継続していく事実をただ言っているだけなのか。赤、黄、緑、白、水色、ピンク等のあまり上等とは言えない布地がアートとは遠い文脈の中で展示されている。個人的な体験から言えば、最初に『ねぶた』を見たときの感動は強烈だったけれども、二回目三回目となると、感動も薄れ陳腐になってしまった。元来祭が嫌いなのだから仕様がないが、それを住中はたった一回の『ねぶた』体験で、突き放したのだから偉い。この素っ気ない布地の展示の中に『ねぶた』の現実が提示されていたし、もっと読み込めば、その過去と未来のすべてが凝縮されていた。

昭和通り商店主CMプロジェクトは昭和通りの商店を五店舗選び、そのCM映像をつくり、それを手作りのモニターセットで、それぞれの店の前で、上映するというものであった。手作りのこのモニターセットが五台製作できていれば、各店舗の前で同時進行的にこのプロジェクトが展開され、もっと効果が上がったと思われるが、一台だけでもアップアップ状態で、いかんともしがたいものがあったようである。CMの出演者はそれぞれの商店主で、自分のお店のことを熱く語っている。中にはドラマ仕立てのものもあり、宝石店の店主のセリフ、「何、娘が欲しい? 指輪はどうしたのかな・・・指輪も買ってやれない男に、娘はやれん!」とちゃぶ台をひっくり返すシーンなど、リフレインで何回も挿入されていて、実にいいんだな。現場では路上ということもあり、なかなか最初から最後までじっくりと見ることはできない状況だったけれど、住中はこの五店舗のCMをDVDに焼いて最終的成果作品としている。それを改めて見てみると、CMとはいえ、各店舗の映像は五〇分ほどあり、随分見応えのあるドキュメントとなっている。そこには店の歴史と青森の歴史が重ね合わされ、各店舗の哲学が語られ、昭和通りという商店街の特異な面が浮き彫りになり、量販店に慣れた僕の店舗観を改めさせてくれた。こういったまだ日本全国に残存する個人商店の存在理由が、住中のフィールドワークによって顕わになったと言っても過言ではないだろう。「上を向いて歩こう」プロジェクトの眼目として、来青したアーティストが街に居住し、街の人たちと関わり合い、その中からアートを制作するというコンセプトがあった。その意味で言えば、この作家が最も深く街と関わりを持ちつつ、しかも街を主題にしたアートをものしたと言えるだろう。インタビューだけの構成で、各店舗の特性を引き出しながら、それが一店舗の問題に限定されずに、個人商店とは何であるかというところまで踏み込んで理解を深めることに成功している。そして何より一本一本の映像が独立して魅力的なのである。それが店舗の魅力なのか、商店主の魅力なのか、編集の魅力なのか、それはさておき、この作家の並々ならぬ手腕は感じ取れた。今回のプロジェクトの最大の収穫であったと思う。

(naca理事)