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密林が紡ぎ出した手芸品

佐々木高雄

 「形」や「色」といったものは、いつごろから人間の内部に芽生えていったのか、どこが故郷なのかと、そんなことを考えていた時期があった。円とか四角、あるいは赤や青、黄といった身の回りにありながら、普段は気にもかけないでいた形や色について、どこまで遡源できるものなのか、興味は尽きない。
 きっかけは、二十年も以前に訪れたことのある中国シルクロードの街トルファンの青空市場で、コギン刺しそっくりの文様を施した肩掛けバッグを手にした時だった。数千キロ離れた広西省の少数民族チワン族が作ったバッグは、紺色の麻地に白い木綿糸で一・三・五と奇数の目を拾って刺していた。津軽コギンと同じ素材・技法が、広大な空間をクロスオーバーして目の前にあるのだから、驚かないわけにはいかない。やがて、あてのない形と色を求める巡礼の旅は、こうして始まり、砂漠と海の二つのシルクロードを経て、とうとうアフリカに辿りついてしまった。  黒人芸術といえば、あの、おどろおどろした呪術的な要素の濃い仮面が、まずイメージとして浮かぶだろうが、意外なことに日常的な生活臭のある織物や染め物、あるいは櫛や枕などの身近な木工品に、オヤッと思わず足を止めるようなものがある。
 中央アフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール共和国)の東端、隣国ウガンダの国境にほど近い密林の奥深く、背丈の小さなことで知られる俗称ピグミーと呼ばれる部族が暮らしている。正式にはムブティ族という彼等は、木の皮を剥いで作った柔らかな布タパクロスに草の汁で絵を描いて仕上げたパニェ(一種の下着)を作って、着用している。
 東京・目白の古美術商「坂田」で対面したのが最初だった。これ以上は作りようがないほどの、素朴な材質に描かれた無駄のない線の交錯に、思わず「これは、菊五郎格子よりも粋ではないか」と口走ったほどだった。物が物だけに目にすることも少なく、入手困難な代物だが、いつのまにか一枚また一枚と手元に集まってきた。もちろん当方は、アフリカはおろかヨーロッパにすら行ったことはなく、せいぜい中国をはじめアジアの幾つかの国を巡っただけの、いわば井の中の蛙みたいなもの。まして財力も時間もままならぬとあっては、身丈にあった楽しみ方しかない。
 小生の好きなイタリアのデザイナー、ブルーノ・ムナーリが「もし正方形が人間と人間が造るもの、建築、調和した構造、文字等と密接な関係にあるとすれば、円は神との関係にある。 単純な円は昔からまた今日でも、始まりも終わりもない永遠性を示している」と著書『円+正方形』(美術出版社、1971年刊)にあるが、ピグミー族がでかしたタパクロスをみていると、ムナーリが円と神とについて述べたのと同じように、この人たちの造形思考を支えているものもまた、祖先の宇宙の彼方の星からやってきたという伝承と、むせかえるような瘴気がたちこめる密林に潜む魔性の神とが紡ぎ出した所産なのかと、まま思うことがある。

(npo法人アートコアあおもり naca理事長)