アーティストのステートメント
テリトリー
遠景の公団住宅やニュータウンを眺めていると、ずっと昔からあるよう な、今突然立ちあらわれたような、あいまいな感覚に陥ることがある。 整然と並んだシンメトリーな構造を持った棟の中には、当たり前に私と は全く関係のないそれぞれの生活や営みがあるのだが、あたかも建築物 自体がそこに生活(棲息)しているような佇まいに見える。 私のこれまでの作品は都市や建造物をモチーフにしたものが多々あり、 制作していくなかで徐々に、私の興味の対象の核というべきものが「空 間の密度」と「継続」のふたつに明らかになってきたように思う。 都市やマンション群が疎密に在って、まるでそれら自体が淡々と棲息し ているかのような空間の密度と日常の継続。言い換えるならば、私、そ して他者の立っている「ここ」から、勝手に続いているであろう「そ こ」の間にある何らかの乖離を表現したい。 今回の青森での音と映像の作品は、特殊な録音方法で臨場感を強調した 普段の生活にある音をあえて暗い室内でヘッドフォンで聴いてもらうこ とによって、オープンな場の音をクローズドに(私のいた普段の空間を 追体験)することで、日常を異化したいという狙いがある。 それは、滞ること無く続いている何気ない日常の音は鑑賞者の日常にあ る音であるが、同様に私の日常の音でもあり、音が鳴っているヘッド フォンの向こうには私がいた空間の音が鳴っていて(鳴っていた)、録 音時の私の耳(当時の日常であり、鑑賞者からすれば他者の空間であ る)、鑑賞時の鑑賞者の耳(現在の日常でありパーソナルな空間であ る)は継続されている空間の密度という点において私と鑑賞者からのあ いまいな乖離である。
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