naca  npo法人アートコアあおもり
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東奥日報2006年4月28日朝刊

吉田榘子 版画の世界

黒岩恭介



Flag, 2004 etching



Flag, 2004 etching



Flag, 2004 etching

 naca(npo法人アートコアあおもり)はその最初の活動として、五月七日まで青森市新町のゼフィルスで 開催中の版画展「吉田榘子の世界」に協力することになり、その展示構成およびパンフレットの製作を 行った。展示にあたっては、彼女の作品をいかに見せるかということをまず考えた。一点一点を個別に見せるの ではなく、シリーズとして制作されたものはシリーズを一体として見せようと計画した。そうすることによって、 シリーズとして一貫している技法や吉田さんの版画制作における問題意識がより明確に見えてくると思われたか らである。そのため、二段掛けにしたり、三段掛けにしたりと、比較的狭い空間全体をフルに活用する結果になった。 いわば白い壁面を作品のためのカンヴァスと見立てての展示構成を行ったのである。それともうひとつ展示に関して 配慮したことがある。展覧会の中心となる作品、GLOSSYのシリーズはその名のとおり、インクに光沢があり、普通の 額装にするとガラス面の反射が邪魔をして、作品のイメージが見え難くなる。元来版画作品はシートを手にとってじか に鑑賞すべきものだということも考え合わせ、マット装の状態で展示することに決めた。したがって作品は鑑賞者と同 じ空気を呼吸することになり、その微妙な表情を直接伝えることになった。作品と鑑賞者の距離を少しでも縮めること につながったと思う。
 吉田さんのリトグラフは製版する過程でパソコンを利用している。手によって描いたイメージをスキャナーで一旦パ ソコンに取り込み、パソコンのアプリケーション・ソフトを利用し加工してから、もう一度出力して版を起こすのである。 物質を扱う部分とパソコンの中の非物質的な過程とを通して制作されるわけだが、最終的には版にインクを盛り刷り出す ので、物としての側面が強く出ている。物足らない場合は、エンボッシング(空押し)をほどこしてイメージに凹凸を 付けて強化するという操作を行う。作品としてはエッチングが面白い。同一の版を色を違えて刷ったり、色を重ねて刷っ ていたりして、刷りの効果をいろいろ試している様子が窺われる。技法的にも従来のやり方を逸脱した不思議な表現も見 ることができ、吉田さんのとらわれない自由な精神と自由で詩的な抽象的なイメージとがマッチして独自の世界を展開し ている。この連休は青森県と縁の深い吉田さんの作品を楽しんだらどうだろうか。青森県とのつながりはパンフレットに 書いたので、会場で読んでいただきたい。(naca理事)