naca npo法人アートコアあおもり
青森市大字新城字平岡160-1039 email: info@art-core.net

pp project

葛西望美

略歴
1979 青森県生まれ
2000 東京の専門学校卒業
2002 千葉の短期大学卒業

アーティストのステートメント

pp project
松竹会館にある空き店舗の中でも、一番奥に位置し、日中でも薄暗く人目にもつかない店舗を提供されました。
表通りの賑やかな商店街の中で、かつて店舗として使用されてきた気配を感じる空間だけがひっそりと存在している。
その気配感という部分を作品にしたいと思い、「ppp」 -pianissimo project- として取り組みました。

 

受容のその先へ:葛西望美
近藤由紀


地元青森からの参加である葛西望美にとって、場所を読み解きながら制作/展示を行うのは、今回がほとんど初めての経験であった。ギャラリーでの展示はこの直前にも経験しており、今回も同様に与えられた空間をギャラリースペースとみなして作品を展示することもできたのだろうが、葛西はここでサイト・スペシフィックな作品を試みた。その理由としては、葛西に与えられた場所がバーカウンターのある小規模店舗特有の空間で、その個性が強すぎたということがあげられるだろう。廃墟となった元たこ焼き屋の薄暗い店内は「猫とか住んでいそう」 なくらい、微かだが強烈な「気配」を残していた。また彼女はこれまでに作品を制作/発表した経験がほとんどないとはいえ、青森で何度も場所との関係性を意識するアーティストとともに仕事をしてきた。作品における「今、ここで」という感覚は、これらの体験を通して、身近なものとなっていたことだろう。いずれにしても彼女は今回この空間の「場所」と「気配」を扱うこととした。
さて、今回葛西がとった手法は、あちらこちらに僅かに残る様々な痕跡(傷痕)の点を3つ結び、それを3Bの鉛筆で繋げていくというものである。彼女はこれらの点を「自分の背中を押し」、「先に進む」きっかけを作るものとみなしている 。もともと「繋ぐ」ことに興味を持っていた葛西は、ここでそれらをひたすら繋いでいくことにした。それは自ら作り出すというよりは、一種受容的な態度の表れであるともいえる。ところでただ繋げていくのであれば、その空間には無数の傷痕があり、いくらでも続けていけた。だが、葛西はそれを行う偏執狂的熱狂も、最終的なフォルムについてのイメージも持ち合わせていなかったため作業は途中で行き詰まりをみせた。こうして最初に繋げられていった壁の無数の線たちは、結局途中で放棄された存在となったのだが、葛西は、それを消すことなくそのままにしておくことにした。だが、みせることを意図されていない線は(入り口に立入禁止の鎖が架けられているために、中に入ってみることはできない)、注意しなければほとんど気づかないが、一度気づくとあたかも星の囁きのように、密かだが、しかしひしめき合い、さんざめく無視できぬ痕跡として不思議な存在感を持った。これらは作品として完成には至らなかったが、ある種の空間の効果を生んだ。試行錯誤の結果、彼女は最終的に入口からその真正面に構える封鎖された使えない扉に向かって影のように床に伸びる三角形の図を「作品」として提示した。同じ手法によって描かれた線であったが、ここには壁の線でみられたただ点を繋ぎ続けるという内省性から、自らの手によって集めてきた小さな囁きたちをどう表すかという意識への転換があった。それは一方で彼女にとってコンセプトの具現化にまつわる矛盾、没入による行為を作品として提示すること、観客の身体を含む空間表現の構成の難しさ、に直面することでもあった。だが、小さく弱弱しい線たちは、最終的には繋がることで葛西がいうところの「強度」をもち、開かない扉に向けて強く鋭い三角形の頂点を扉の向こう側へと延ばしていた。

(ACAC学芸員)