naca npo法人アートコアあおもり
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「怒涛のっ!あおもりアート商店街」プロジェクトを終えて

石 橋 修

 昨年の7月22日から「全国アートNPOフォーラムinあおもり」(10月14、15日)開催までの約3ヶ月間、青森中心市街地(青森駅、八甲田丸青函連絡船、7商店街)を舞台に、「アート」と「街」の関係性を探る4つの社会実験プロジェクトが展開された。周知のように、青森市は2010年の東北新幹線新青森駅開業に向けた対応が要請されているが、青森市中心市街地7商店街は、市のまちづくりの基本理念である「コンパクトシティ構想」により整備された複合商業施設アウガを中心に、パサージュ広場の活用等による賑わいの再生が全国的に評価されている話題の街である。しかしながら、全国の地方都市同様、空き店舗や大型店の閉店、他ショッピングモールへの購買人口流出、後継者不足による衰退等が懸念されている状況にある。
 今回の「全国アートNPOフォーラムinあおもり」開催を契機に、地方都市に共通である中心市街地の空洞化や停滞状況打破に4つの社会実験プロジェクトを実践しながら評価する手法を用い、「中心市街地がアートをツールとして活用した場合に、どこまで元気になれるか」を検証し、提言することは、時宜を得た試みであったと言えよう。

<プロジェクトの概要>
今回のプロジェクトの概略は以下の通りであった。

1. 「八甲田丸青春劇場」(7月30日午後1時〜)
一ノ瀬泰造のドキュメント映画「TАIZO」上映及び、奥山和由プロジューサーと中島多圭子監督によるトークショー。八甲田丸内の車両甲板の会場には青森市長も臨席され、夕刻には「怒涛のっ!あおもりアート商店街」オープニングのオープンセレモニーのテープカットもあり、前哨戦のスタートが切られた。

2.「上を向いて歩こう!〜若手アーティストが商店街を変える〜」(7月22日〜10月15日)
これは、中心市街地の空き店舗を活用してのアーティスト・インレジデンスの試みであり、今回は県外作家を中心に松竹会館をメイン会場に商店街の協力を得ながら展開された。

3.「アート井戸端会議」(7月中旬〜10月15日の期間中随時開催)
展覧会会場や昭和通り商店街の「みんなのホール」を会場に、アートを切り口に、まちづくりなどに関連した多岐にわたるテーマで議論する共同学習の場であった。(ゲストやアーティストによるレクチャー等)

4.「キッズ・アート・ワールド2006」(7月22日〜10月15日)
八甲田丸前広場でのミチバタ版画、同じく八甲田丸広場や中心商店街等を舞台とした針穴写真、市民ファミリー農園での野焼きなど、アーティストと子ども達による表現活動。作品展示は、長島地下ギャラリー(9/17〜10/15)や八甲田丸等(10/14,10/15)で行われた。

それぞれのプロジェクトの詳細な評価についは各担当者の分析に委ねたい。ここでは、一連のプロジェクト全般について、実行委員の立場から「生涯学習のまちづくり」という観点にウエイトを置いて、プロジェクトの試みの意味や成果についての感想を述べてみたい。

@「八甲田丸青春劇場」については、これまで認知度が低いと考えられる映画[TAIZO]上映によって、初めて一ノ瀬泰造の存在を知る参加者も多かったものと思われる。奥山和由プロジューサーと中島多圭子監督によるトークショーでのディスカッションでは、フロアーからの積極的かつ洞察力の鋭い質問があり、怒涛のアート商店街の皮切りに相応しい観があった。
これまで県内では、地元ファンによる手作り映画祭として「@ffあおもり映画祭」が15回開催されており、県内各地でのフィルムコミッション開設や県内ロケ実現の原動力になっている状況にある。今回の「TАIZO」上映も、八甲田丸内車両甲板という空間的ゆさぶりを伴いながら、初めてこのような映画に触れた学生も多く見られたように、映画という表現芸術がもつ集客力や話題性を実感することができた。
上映後に実施した「青森市中心市街地」に関する来場者アンケート調査結果では、「中心商店街の魅力」を問う項目(複数回答可)での上位は、「海が近い」(65、2%)、「商店、銀行、オフィスなど、まちに多様性がある」(27、1%)の順であった。商店街のまちづくりについての自由記述にも「ポイントは海、海をどう街とつなげて人を引き寄せるか」(複数回答可)といった意見が多数みられた。また、「好きな場所や風景」では「アウガ」(27、3%)、「ベイブリッジ」(26、6%)という回答結果であった。「まちの問題」を問う項目(複数回答可)では、「おもしろいお店が少ない」(58、2%)、「まちに芸術的な雰囲気が欲しい」(38、6%)、「駐車場が不便」(36%)と、街の魅力に欠ける具体的問題点が浮彫りにされている。
さらに、「中心商店街を色でたとえたら」(単数回答)の質問に、「灰色」(30、8%)、「青色」(24、7%)の順になっており、殊に、女性の90%が「灰色」と回答している点からも前述の「芸術的な雰囲気が欲しい」との希求感と重なる。街の魅力としての「華やぎやうるおい」への問題意識は、中心商店街の魅力を問う項目での「まちに歴史、伝統が感じられる」や「建物、ショーウィンドウのディスプレイがおしゃれ」が低率であったこととも符合している。
以上の来場者アンケート調査からも、中心商店街を舞台とした今回のアートプロジェクトの必要性や有効性が示された結果と判断できよう。これは国際芸術センターが先導し、そこから生まれた市民パワーの結実としての「ナンシー関展」成功の背景にある市民意識と底通していると思われる。

A「上を向いて歩こう!」は、今回の中心的プロジェクトであり、全国的な「シャッター通り」問題解決への糸口とも言える社会実験であろう。アートを社会的文脈の上で提示、普及していくことによってアートを通した社会変革の可能性を探る試みである。具体的には新町通り、昭和通り、柳町通りをメインストリートに、「アーティストが「街なか」に住み込み、制作・発表を行うことで「何か」が変わることをめざすものである。
今日、「地域力」の減退現象が全国各地で見られ、いわゆるソーシャルキャピタルの形成が急務の課題となっている。ソーシャルキャピタルとは、地域の人々のコミュニケーションと信頼感が社会を支える公共財であることを意味しているが、「コミュニティー・アート」を通じたコミュニティー再生の取り組み事例も増えている(ちなみに国外では、英国、アメリカ、オーストラリア等、移民の多い国にみられる)。この1960年代末に始まった、アートを通して個人とコミュニティーを活性化していく活動は、今では地域の様々な人々がアートに参加し、共に表現する場を創出している。
そして、この活動の最終的目的は個人と共同体の創造性をはぐくみ、共同体の活性化を図ることにあるため、「今では創造的な町づくりの手段の一つとして伝えられている」(上山信一)のである。新しい地域再生モデルが要請される現在、ともすれば啓蒙的になりがちな芸術文化振興を見直す意味でも、アーティスト・インレジデンスは有効な手法と考えられよう。今回のプロジェクト期間中にも見られたように、アーティストと街なか住人との対話の機会があるため、結果的には中心商店街を様々な角度から見つめ、総合的に人々のつながりを育むアートプログラムの実践となり、一般的な展示会や文化活動との違いも認識された。
現に、参加されたアーティストの感想にみられるように、アーティスト主体の作品もあるが、街なかの人々とのかかわりや青森市中心商店街という地域性に触発された側面も重要であろう。特定の場所にあることで見出された価値が反映され、その場所の固有性、青森市に根ざしたサイトスペシフィック(その場所特有)な展示が展開された可能性を有している。これはアーティストの触媒機能が発揮されることであり、これまで住民がストックしてきたものにアーティストのノウハウが加味されることで生じる「街なかアート・パワー」の展開である。10月14日、15日の全国フォーラム来場者アンケート調査結果でもその有効性が期待され、「今回の4つの社会実験プロジェクトのうち、まちづくりにより関連が深いプロジェクト」(単数回答)として「上を向いて歩こう!」(51.9%)、「キッズ・アートワールド2006」(23.0%)、「アート井戸端会議」(17.3%)との注目結果が得られている。

次に、9月から9回程度開催されたB「アート井戸端会議」であるが、テーマに即してのゲストレクチァーを受けながらのディスカッションが中心であり、小集団による共同学習形態をとる相互学習でもある。「アート」による「まちづくり研修会」機能を有し、個々の生活課題を結びつけた地域課題の発見や新しい人間集団形成の萌芽としての働きを果たしていたと思われる。
かつて地域づくり論に大きな影響を与えた鶴見和子は、内発的発展の事例研究の重要性を説き、「地域の小伝統の中に、現代人類が直面している困難な問題を解くかぎを発見し、古いものを新しい環境に照らし合わせつくりかえ、そうすることにとって、多様な発展の経路をきり開くのは、キー・パーソンとしての地域の小さな民である」として、地域づくりとは、地域の伝統(文化遺産)の再創造へと向かう住民の主体形成であることを示唆している。
鶴見のいう「伝統の再創造」は、地域課題の発見とその解決に向けての取り組みのプロセスと換言できる。住民による地域課題の「発見」と「共有」ということに関連して、アート井戸端会議においても同様の「地域における学習の構造化」の可能性を指摘できよう。@必要に応じていつでも自由に活動をおこし継続させることのできる小まわりのきく自主的グループ、サークルや地域組織の場Aこれらの単位組織が自由に自発的に連帯して取り組める集会の場Bその活動がより深まり高まるための系統的な学習の場、これらを現実的な課題解決の取り組みと結びつけた学習の在り方として有機的に結びつけることが生涯学習計画化の課題であるとの指摘もある(松下拡)。このことは、アート井戸端会議が地域課題の発展と共有に向けての学びの場で有り得たかの評価指標となろう。

最後に、C「キッズアート・ワールド2006」は、青森県立美術館開設のプレ事業であったキッズアート・プロジェクトを、あおもりNPOサポートセンターが中心となり、広く市民の手に引継ぎ今年で3回目の参加型アート活動である。子ども達が活動に参加することで自分の役割、あるいはコミュニティーの一員としてのアイデンティティーを獲得する機会でもあり、1994年に批准された「国連子どもの権利条約」に謳われている、子どもによる表現活動を通した地域への参画や意見表明権と関連する要素を内包しているプロジェクトである。
殊に、平成13年の社会教育法の改正では体験活動(体験学習)の重要性が強調され、「子どもの社会教育」領域における文化創造への基盤整備につながる事業展開が模索されている。よって、子ども達が仲間と共に、ミチバタ版画(美術家・橋本尚恣)、針穴写真(写真家・三澤章)、野焼き(陶芸家・鈴木康弘)の表現活動を通して、青森という街の記憶を刻印する作業機会を得たことは評価できよう。残念ながら、個人的には参加した子ども達から詳細に感想を聞くことが出来なかった反省点は残るものの、全国的に展開されつつある子どもの意見表明権を踏まえた「地域参画システム」構築を検討する契機になったものと受けとめたい。

最後に、簡略に4つのプロジェクト開始から全国アートNPOフォーラム終了までのプロセスを振返って、気づいた点について言及してみたい。
折しも、まちづくり三法が改正され、青森市の中心市街地活性化基本計画が富山市と並んで全国第一号で認定されることになった。2005年の東京商工会議所地域創造センター調査でも、「市民は商店街の良さを、その商売の内容や質よりも、街並みのきれいさ、街の使い方のマナーなど、アメニティーの観点でより大きく評価している」結果が出ている。よって「ソフト・パワー」としての「青森市アート商店街」の試みは、地域活性の起爆剤として有効であったと思われる。現に、全国フォーラムや地元実行委員会の反省会「あどふぎフォーラム」における新町商店主I電気さんの発言(「今回のプロジェクトにかかわって良かった。街が変わったというよりも、私の意識が変わった」)には、今回のプロジェクトに関わることでの意識変容が示されている。地域住人の意識変容が「アートによるまちづくり」の第一歩であり、実行委員の反省会でも多数意見であったように、「一過性のイベントに終止することなく継続的な取り組みの必要性」の声に集約されていくものと考える。
また、今回の「あおもりアート商店街」プロジェクトを通して、今後の活動展開に結びつく課題も浮き彫りにされた。例えば、事務局担当者への過重負担を懸念する声などである。今回、事務局の超人的働きには敬服に値するものであったが、今後の継続的活動を前提とするならば、さらなる「マネージメント充実」の方策が求められていると考える。この点、個人的にはアメリカのダウンタウン再生で注目されている「メインストリートプログラム」の手法が大いに役立つものと考えている。組織運営、プロモーション、デザイン、経済立て直し、4つのアプローチからなる「メインストリートプログラムの仕組み」には示唆に富むものが多いと思われる。(この中には、ボランティア、広報、資金調達問題なども含まれている)
さらに特筆すべき点として、行政や地元商店街等とのパートナーシップを挙げたい。事務局の努力と、実行委員会の構成メンバーが諸分野で活動実績ある事情も反映してか、連携・協力がスムーズで予想以上の成果があったことを強調しておきたい(青森駅の協力なども象徴的であろう)。「協働のまちづくり」が叫ばれる昨今、行政と民間がそれぞれの得意分野を活かしパートナーシップに基づき、既存の地域資源(歴史、文化、自然、ビジネス、人材等)を活かし、前向きの変化を起こし、その結果を見せることでより多くの人たちが変化を望むようになることが重要である。
今回の「アート商店街」に関する一連の取り組みは、「アート」を通して人と人が結びつき、街を見直し、個人と公共を問うことで、見慣れた風景や物事をいつもとは違った視点で見る経験を提供してくれたことを念頭に、「アート」の地域再生の効果(地域が動き出す)をさらに検証する必要があろう。
なお、今回のフォーラムに参加された千葉の山浦さんから、「青森は未来の実験室」であり、「アートが『まちの議論』の発端となった事が、まさに青森における成功指標ではないか」との感想をいただいたことを付記しておきたい。

(青森大学助教授)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

コンパクトシティ(Compact City)とは、主にヨーロッパで発生した都市設計の動き、またその背景にある思想・コンセプト。アメリカではニューアーバニズム、イギリスではアーバンビレッジが同様の概念を打ち立てている。

一ノ瀬 泰造(いちのせ たいぞう、1947年11月1日 - 1973年11月29日)は、佐賀県武雄市出身の報道カメラマン。 日本大学芸術学部写真学科卒業後、UPI通信社東京支社に勤務。
1972年3月、ベトナム戦争が飛び火し、戦いが激化するカンボジアに入国、フリーランスの戦争カメラマンとして活動を開始。以後ベトナム戦争・カンボジア内戦を取材、アサヒグラフやワシントン・ポストなど国内外のマスコミで活躍、「安全へのダイブ」でUPIニュース写真月間最優秀賞を受賞する。 カンボジア入国以後、共産主義勢力クメール・ルージュの支配下に有ったアンコールワット遺跡への一番乗りを目指しており、1973年11月、「地雷を踏んだら“サヨウナラ”だ」と友人に言い残し、単身アンコールワットへ潜入するも、そのまま消息を絶つ。それから10年たった1982年、一ノ瀬が住んでいたシェムリアップから14km離れた、アンコールワット北東部に位置する、プラダック村にて遺体が発見され、両親によってその死亡が確認された。その後、ポル・ポト派により、処刑されていたことが判明した。 著作に『遥かなりわがアンコールワット』『地雷を踏んだらサヨウナラ』など。
彼の生きざまは書籍や舞台などになり、1999年には浅野忠信主演・五十嵐匠監督による映画『地雷を踏んだらサヨウナラ』によって若者の間でブームとなった。また一ノ瀬の没後30年にあたる2003年には『地雷を踏んだらサヨウナラ』をプロデュースした奥山和由の制作、中島多圭子監督によるドキュメンタリー映画『TAIZO』も公開されている。 現在、現地には村人が遺族の許可なしに勝手に建てた「墓」があり、旅行者から拝観料を巻き上げたり、エイチ・アイ・エスの日本語ガイドが一ノ瀬の写真を模写した絵をTシャツにして販売しているが、これらはもちろん非公認である。

ナンシー関(ナンシーせき、本名:関 直美(せき なおみ)、女性、1962年7月7日 - 2002年6月12日)は、青森県青森市生まれの版画家、コラムニスト。法政大学二部文学部中退。
テレビ番組の視聴を通して芸能人を批評するコラムと、その挿絵として使われた消しゴム版画で知られた。

ソーシャル・キャピタル (Social capital, 社会関係資本) は、社会学、政治学、経済学、経営学などにおいて用いられる概念。人々の協調行動が活発化することにより社会の効率性を高めることができるという考え方のもとで、社会の信頼関係、規範、ネットワークといった社会組織の重要性を説く概念である。人間関係資本、社交資本、市民社会資本、社会資本とも訳される。
基本的な定義としては、人々が持つ信頼関係や人間関係(社会的ネットワーク)のこと、と言って良い。上下関係の厳しい垂直的人間関係でなく、平等主義的な、水平的人間関係を意味することが多い。しかし、この語には実に多様な定義があり、以下のPortes(1998)の文献によれば、共同体や社会に関する全ての問題への、万能薬のように使われている言葉だが、1990年代終わりからは学会外でも社会的に有名な語となった。

鶴見和子(つるみ かずこ、1918年6月10日 - 2006年7月31日)は、日本の社会学者。東京都生まれ。長く上智大学の教授を務めていた。上智大学名誉教授。国際関係論などを講じたが、専攻は比較社会学。南方熊楠や柳田国男の研究、地域住民の手による発展を論じた「内発的発展論」などでも知られる。