アーティストのステートメント
S10
映像を見る時、テレビなりスクリーンなりの機械を必要とするが、それらの機械が置かれた「家」「映画館」「美術館」も 鑑賞者の目にはぼんやりと映っている。フレームの外にぼんやりと映っているこれらの残像が作品に及ぼす影響は、はか りしれない。平たく言えば、どこで、観客が作品に出会うのか?同じ作品でも場所が変われば「見られ方」も異なり作品自体 に「出会わない」可能性も考えられる。そのため、作品が置かれる物理的・文化的基盤を検証しプロジェクトを立ち上げる。
今回、フレームの外にある空間は人々の移動を目的とするスペースに商 店がシステマチックに建ち並ぶ「商店街」である。 そこでは無数の「イメージ」が移動する人々を減速させ、立ち止まらせ、店舗へと誘う。 「商店街」の表層はこの機能的な イメージのモジュールで構成されており、それを支えているのが「売る」ことを目的とした「商品」の存在で ある。 そのため、私がまず行なった作業も他の店舗の経営者と同じく「商品」を明確にすることだった。
何を売るか?この問題にアートが概略的に語るのは難しい。しかし、この問題にクリアーな回答を出さない限り移動する人々 の行動パターンに関わることは望めない。そこで、私が担当した空き店舗では「不安によって人々の想像力に語りかける 物語」を「商品」とすることにした。
私が担当したスペースの大きさは他の店舗と変わらず、時間にして歩行者との出会いは僅か3秒程である。その僅かな時間 に人々の意識の中にこの物語を届けるために選んだ「イメージ」が「S10」である。
ところで、私も含めこの文章を読んで下さっているすべての方々に考え ていただきたい問いがある。
この「商品」は何と「交換」されたのか?
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