「月鏡夜話」・ゆみ


夏のころは月おぼろげに

夜をかきまぜ、

世は片栗を溶いたように

つやめいて、とろりと光る

地虫のうねる青草を踏みしだいて、

白き足指を泥にめりこませ

あのひとは立っていた


しっかりと張った額にびっしりと

夜気をふくんだ露をつけて

おくれ毛のかかる薄紅に染めた頬が

ほろりとさせる、むくげの風情


この月のあり処を探して

あのひとは旅をかさねていたのだ

はるばると得体のしれない物の怪に乗り継いで


あのひとが人の世の淡きを想えば

月は坂上にぽってりと産まれおちる

ふところに隠したのは彫り物をほどこした手鏡


月はすでにこの世のものでない香をふりまいている

やんわりと見えてあまりにすっくりとしたあのひかりの冷たさよ、

幼女のようにすすり泣く女の恍惚とした手の平をみよ

深き闇、連なる山の陵線を駈け降りる、

その魔鏡に映りたる空蝉をみよ


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詩の投稿作品・1998年後半


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