「かげ」

ぼくは影を失くしたことがある
ぜんぜん影がない!
晴れた日に外に出て足下を確かめてみても影がなかった
いくら考えても理由が分からないし
誰に訊いても誰も応えてくれない
いつもは必要ないと思っていたのに
なくなってしまうと不安になって
淋しくなり  いらいらして落ち着かない

その時のぼくは自分らしさも失くしていて
空に宙ぶらりんになっていた
だから最初は影なんてただの影じゃないか
と投げやりになっていた
だから暗闇が好きだった
暗闇だと影なんか必要ないし
自分の姿を何も気にすることなんかない
そうしているうちに暗闇という空間が身体に
ひんやりと重くのしかかって来た
何も生まれない無音の世界
そこに居るだけで  だんだん息苦しくなってくる

ぼくはいつの間にか影の世界に閉じこもっていたのだ
暗闇という影の世界
その世界では自分しか存在しない
たった独りの自分だけの‥‥閉塞感
影という存在は
もう一人の自分自身だったのだ
今まで自分らしさという影を失っていたのだ

気が付くとぼくは陽射しの中に佇っていた
ぬくもりのある音の溢れる世界
ぼくは慌てて足下を確かめていた


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