真夜中の屋根の上のピクニック(風のオルフェウス)

佐藤真里子


窓の外 落葉 坂道 星あかり
うつ伏せたまま動かないわたしを
抱き起こしてオルフェウスが言う

なんて宙吊りなんだ 外へ出よう 今夜は星がいっぱいだから 屋根に登ろう 屋根から屋根へ 真夜中のピクニックしよう 半分飛びながらね 君の好きなマヨネーズ付きパン持って 僕の好きな白ワイン持って

背中がやけにむずがゆいのは
忘れていた大きな翼のせい
この半ば壊れかけている青白い星の
重力を外し

こわごわの一歩
ふんわり二歩

屋根から屋根へ飛び移っていく
とっくに眠っている家々の隙間を越えて
遠くに霞む眠りを知らない街の原色を背に

もう下は見ない
今日から明日へ次々と送り込まれる
わたしたちを圧迫するものを踏みしだくように

駆けて駆けまわって
飛んで飛びまわって

疲れ果てて無意味だと気づくよりも素早く
大気圏外のエネルギーだけに引き寄せられて
星だけを見つめながら
平べったい屋根の上に寝転がれば
何もかも吸い尽くしそうないっぱいのまたたき

本当は僕たち どこから来て どこへ行くのか 消されてしまうまで 何も知らなくて 弱みや痛みばかり晒してる君の絵と僕の歌が 残るだけ だからって 僕たち‥‥

真夜中の寒さに震えながら
オルフェウスの唇が
わたしの唇に
いま生まれたばかりの歌を
そっと伝えた


詩の投稿作品・1997年


詩の投稿作品


目次へ戻る


●作者へのご感想はこちらへ●