「残暑」・なっつ


枯草を
あたたかい棲家に
こおろぎは
艶やかな喉を鳴らす

そして
近くでは気づかないが
ふと
遠くを見据えれば
万華鏡の山が
そっとそこにある


そして
畦道を耕すひとはいても
しだいに
歩く人は減ってゆく


無口な
ひとびとの

無口な秋が
しのびよる
朝方の道で


初老の男の
声がした
「体が
ままならないよ
働こうと思っても
どうしても
もう
あの世にいってもいいと
思って
さ」


相手の初老の
女も
か細い声でひとこと漏らす


その
妙に悟った
通る声が
夏の名残だ


初老の男は
だれよりも早く
こおろぎを見つけ出し

初老の女は
冷たくなる水に
手のクリームを塗り始める


老いること
うつくしく変わる
秋のわくらばのように
逝くならば
さらりと
地球から剥がれ落ちる
微小
でありたい


わびしい
空の欠片が
研ぎすまされて
珈琲色に
落ちてくるまで

男よ
女よ


汗ばむ生身の

肌を
拭き取りながら

老いるときも

病めるときも

悲しい声だけに
耳をすまさないでくれ

だれもが
砂の乾く夏の
終末の
こころを
ひとりでは
もてあますから
朝の道

たそがれる道

ビーだまのように
そっと
転がりに
くる

青い
残暑の衣をまといながら


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