「冷蔵庫」・星粒


真夜中の摩天楼・・
そこには真っ白な卵のネオンや、
赤いトマトの悩ま
しい灯りが点滅している・・
そして涼しく風は吹いている。
牛乳パックのビル街、コンブが街路樹のように立ちはだかり、
ときおり、おれんじジュースやら、
醤油味の水溜りがぽつんとあったりもする。
街は、白く細い網目で二階建てバスのように縦に連なる。
そして、ひとが冷蔵庫をあけない時刻に、
バターは黄色いバスになって、徘徊する。
ひとはだれも、いない。
そこはにおいはあるが、キムチのつんとするべっとりとした、
沼地や、ジャムの甘い誘惑の沼地や
、さまざまなにおいがいっしょくたになって流れてくる。
目を凝らすと、奥のほうに自殺した人間のように、
しなびたものが折り重なってびくとも動かない。
玉ねぎのきれっぱしだとわかるのは、
腐乱した匂いから発している独特の、
あの臭みのせいだろう。
冷蔵庫は虫にとっては巨大な摩天楼であり、
こちらにとっては、真夜中にとつぜんモーター音を響かせる、
いたずらなびっくり箱だ。
真夜中にうるさいと感じながらも、
ふと真夏の砂漠のキッチンで、
よろよろとたどり着いては、あけずにはいられない。
すると、突然、
冷蔵庫はただの白い冷たい箱に戻ってしまう。
それを知っているが、
知らないふりをして、ひとはそそくさと
欲しいものだけを手にする。



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