「むこう岸」・なっつ


ある夜
もうひとりのわたしはむこう岸へ置いてけぼりにされ
藍色の大河を隔てた
むかしという国を眺めていた
こけの生えた大地に
冷たく身を横たえていると
生きながら死んで行く
星の光や、水の螺旋模様や
雲の子供たちの悲しみは
ひっきりなしにぽたぽたと落ちてきた
喧騒が輝きとなって
あの国の足元では揺らめいていた
静けさが鉛のように
重たくのしかかるこの体
神は雷を産み
わたしは全身でおがんだ
もうこうなったら
生きているだけで尊いのです
諸々の艱難辛苦は
神様に委ねます

すると
夢の中の桃色の空は割れ
ようやく光が顔を覗かせた
むこう岸にこんどは
雨脚がかぶさり針のように
あめが痛めつけるあの国を

わたしは
悟りはしない
わたしは
うなずきはしない
納得のいかない国にかえりたいのが
無色の心だ

むこう岸の国は
いつか滅ぶだろう
ここにいるわたしも
いつか滅ぶだろう
けっきょくは人は
自我の火を燃やし絶える
かがり火ではないのか



藍色の大河を
泳いで、洪水からにげるひとびと
心のどこかで見捨てたいと
想いながらも
いつしか手をさしのべてしまう
それが
生きるという
苦しみのはじまりとしても

この岸辺は
絶えきれぬ重さだ
こけはやがて流れに沈み
種を撒いたひとの心が
実をつけるだろうか
そして
からみあった根のように
愛し合うひとびとが
ひとりでも絶えなければ


緑のジャングルが
数億年後には栄えるだろう
黄泉の国
から
魂になって
ふと立ち寄ろう



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