「愛した人」・レトロ


北京大学の湖
一艘のボートを浮かべて
君は語った
「革命の日々に
教育者は迫害され
教師だった母も囚われの身になり
僕も人生の3分の1を反古にした」
君の孤独な魅力の所以を知る・・。

その日の語らいが

湖の面積を二分した

二人揺られるボートは
心で割れていたんだ

決して這い出せない沼地がある
君の心に

金も無く
こねもなく社会主義の只中で
君は
どこまで生きていこうが
侘しい旅人だろう

白い日記に「愛」と名づけた
君の
日本語の拙さに苦笑しながらも

私は心の
琴線をくすぐられすぎていたが

愛が在るだけでは
成就し得ないものの存在に

私は
胸が痛む

北京大学の緑地で
君は私の腕をつかみ
衝動的か本心か
図れない愛を求めた

湖の君の深い
蒼が
炎に変わる前に

君の歴史を振り返りなさい

その
重い荷物を
ともに背負えない

民主主義の国の
苦労しらずの女を

憐れんでくれ

私は帰る

いつしか桜の国へ

相違無いかおかたちに
ふいに
愛の永遠性を見出すが

湖の暗い目は
私には
重すぎた


さようなら人民服の
国の
とてつもなく悲しく
取り残された君よ!


愛は愛と呼べば
更に終わりが無くなるから

私は敢えて口にせぬ

大陸の夕陽は大きいと
ふたりで歩いたこみちがあった

いつかまた

私の灰が
この国に飛んできて

貴方の灰と重なり合い

1輪の花に降り積もろう

さようなら

わたしの

永遠だが
永遠でない

君へ
       


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