「孤独なスキーヤー」・滝野澤 弘

ひとり
雪野に出た
あの頃
野を走り
山を登り
山を滑り
鳥になった

吹雪の時は
鳥のように
うずくまり
怒れる虎の
凍れる爪に
体を鉄にして
耐えた

やがて
ぼんやりと明るくなり
待ち望んだ女神が
高く現れ
空は輝きわたり
樹木も
雪も
一斉に歓喜だ

どっかりすわって
握り飯を食う
雲のニンフが
微笑む

清らかな裸だ
大雪が午後もつづけば
足の感覚だけで
帰る
暗くなって
泣きたくなって
家の灯が
雪の幕に
突然
見え隠れしたとき
そこに
慈悲が
住んでいるように
思った

いまはスキー場がつくられ
リフトが
お客を
のせるようになった
音楽が流れるなか
規則的に滑るようになった

あの孤独が
無くなったのが
さみしい


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