風のロープ・鈴木どるかす

春 痛んだ魂が 午睡のなかで
谷間に向かっていた
半ばめざめて 思い出をたぐる

やわらかくて淡い あの声で
永遠に友だちでいたいと
くすっと笑って
ひろげた私の手に花びらを落とした
風が窓から
甘い香りを送りこんでくる
花びらが舞い落ち
身をすり寄せるように 私の頬に触れると
また眠りの中に入っていった

谷間の真ん中で
私は膝をつき 花を毟る
ほのかな香りに 心を踊らせ
われを忘れて 花を毟る
やがて花びらが尽きると
今度はあなたが身を脱ぎなさいといわれ
私は腰に手をあて
洋服を脱ぐように身を脱いだ
身から血が滴り 散らばった花びらに落ちた
すると花びらはみるみる骨になっていった
骨は私を脅かし 死の手で撫でて
谷間の真ん中で 嘲笑にさらすと
谷間は干からびた骨で埋まっていった
春の風が 谷間に吹き
うず巻き よじれて ロープになった
骨をゆすり 吹き上げ 骨を縛る
骨はよろこんで風のロープに繋がれている
よろこんでいる骨は 春の光を浴びて
あざやかな色になり ういういしい花びらに変わり
そして丘の方に飛び散って 見えなくなってしまった

春の光が 重い瞼にあたり
ぼんやりと めざめる
あのひとの人生が終わったのを まだ信じられずにいる

あの声 しぐさ
眼差し 温かさ
が 風のロープに繋がれていく
窓は花びらを呼び寄せ
さわやかな風を送り込む
ふと見ると
窓辺にある譜面台のページがめくれていた

詩の投稿作品・1997年


詩の投稿作品


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