「十字路にて」・ふじむら みどり

十字路の片隅にいる。
外から、声が聞こえる。

「困ったもんだなっす」。
「はあー」。

片隅の古本屋にいる。
外の声を、聞く。

「じっちゃんが、だめなのっす」。
「はあー」。

古本屋で、本を読むふりをする。
外の声は、もっと高くなる。

「じっちゃんが、ほんでくってないのです」。
「はあー」

外に視線を動かす。
黒い自転車は、二台。
六十代の女が、二人。
ひっつめ髪とパーマネントのお話。

具体性のないエンドレステープの会話。
「ほんでくってない」老人のこと。
「はあー」。と言うみごとな相槌。

昔むかしから、そっと慣習のごとく、
女が背負って来た重たく、冷たく、からからした時間群。

十字路の片隅にいて、
それらの断片を、
聞いている。


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