「不完全な海」・わに

幽かに濁った
水の遠くに
ちかちかと
明るい煌きが
明滅して
いる
かも
知れない

滲み出た
情熱は
水に溶け合い
数多の勇気を
稀釈して
いる
かも
知れない

見えない

カルシウムは

水にたゆたい

数多の珊瑚(さんご)を

守って

いる

かも

知れない

めりこむ
太陽
地平に潰れ
明るい予測を
拒否して
いる
かも
知れない

暗い
藻の息
魚は震えて
幾多の囁き
交わして
いる
かも
知れない

苛烈な

海牛(ウミウシ)

動きは鈍く

海鼠を枕に(ナマコ)

する気は

ない

かも

知れない

死出虫は
居ないけど
蟹の鋏は
魚の死影を
鳥葬
する
かも
知れない

海胆の幼生(ウニ)
透き通る
体泳がし
鰯の口を
何とか逃れて
いる
かも
知れない

マリンスノー

竜宮の地

高邁な理想

漆黒の冷たさを

微に暖めて

いる

かも

知れない

岩裂の
ゆらり向こうで
水の流れが
わわわわと
湧き出して
いる
かも
知れない

様々な
憶測を超え
世界を出るべく
絶望速度で
鮪が泳いで
いる
かも
知れない

コーラルリーフが

千切れてしまい

ただ身を任せ

鴎を想い

漂流して

いる

かも

知れない

愚劣な
思い出
夢の水母(くらげ)の毒性は
アルカロイド化合物
神経を慰撫
しない
かも
しれない

伝説は灰色宮殿
規律は絶対
ナトリウムの
塩のイオンが
動いて
いる
かも
知れない

胎内の

見えぬまどろみ原初の海

総て書き留め

入れた引き出し

忘れて

いる

かも

知れない

サファイアに
金剛石に
瑪瑙色、美しさの上で
熱帯の海に
敗北して
いる
かも
知れない

見える
石灰は
枝を伸ばして
水を切り裂き
珊瑚の凶器と
なる
かも
知れない

遠く見て

鯨の腹に

知らぬ間に

縞模様

ゼブラを気取って

いる

かも

知れない

沁み入る
情熱は
水を逃れて
数多の絶望を
濃縮して
いる
かも
知れない

岩に貼りつく
昆布の陰影
揺れて揺られて
酸素の泡を
漏らして
いない
かも
知れない

青い鮫

固い歯の色

磨かれて

鰓は水を突き放し

孤高に佇んで

いる

かも

知れない

幽かに透明な
水の近くに
暗い煌きが
さつさつと
明滅して
いる
かも
知れない


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