「エ バ」

鈴木どるかす


「人はそれぞれ自分の欲に引かれ、
おびき寄せられて、誘惑される」
ヤコブの手紙一章十四節
わたしの中のエバが私にキャンドルをくれた
キャンドルは天使の形をしていた

わたしのエバがノイローゼになって
突然、死にたいと叫んだ時
私は少しおどろいた
エバは健康そのものだったし
化粧もきちんとしていたのだから

私はマッチを擦り
熱いおもいをむき出しにして
キャンドルに火を付けた
天使は悲しげに静かに燃え上がり
すみきった火を身にまとい
空気を赤々と染めた

天使の輪に蝋が滴り
赤ん坊みたいな甘い匂いがしてきた
蝋の滴る天使の輪から
わたしの中のエバが現れて
透明な目でまっすぐに私を見つめている
エバは自らの髪を焼き
キラキラ輝き出した
輝いているエバの内側から火が付いて
エバの芯がどんどん溶かされていった
荒れ狂って、狂おしいほどの
エバの美しい炎を見つめていると
私の神経が真っ白になってきて涙があふれてきた
目に溜まった涙をすべて飲み尽くすと
私のからだの芯が溶けていくのがわかった

エバの甘い笑顔に引かれて、炎に手をかざし
光りと影を楽しんでいると
いきなりエバは私の手を掴み
火の中になげ入れた
強烈な痛みが、からだを走った
炎が恐ろしい、火に吸い込まれる
からだの芯が焼かれる

私はわたしの中のエバと長い夢をみた
すべてを焼き尽くす
死の苦しみに溶けだした夢を

目覚めてみると
私の手のひらに炎の跡が残っていた


詩の投稿作品・1997年


詩の投稿作品


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