<あどりぶ>でオルフェウスと出逢った(風のオルフェウス)

佐藤真里子


時間はねじれたり
時には凍結さえしてまうものと
心に言い聞かせた

それでも
わたしのいまがつかめずに
辿り着きたい先が見えずに
脳裏の砂漠で迷ってばかりいた

たまには<あどりぶ>のドアを開けて
顔を見せてよと
親友の電話にも生返事
閉じこもっていると腐っちゃうよ
うん もう腐っている

そんなわたしが重たくて
慣れてしまった防御の厚着
一枚 二枚
思わず全部脱ぎ捨てて
<あどりぶ>のドアを勢いよく開けてみた
よく見えないしぼり過ぎている照明
まんなかで誰かが歌っている
そこだけまるいやさしい明るさ
でもどっぷりと暗い歌
ギターだけで歌っている
澄んでいる旋律
複数の楽器のように声を変えられるんだね
すてきな音域
でもやっぱり暗い

〃エベレストの頂上で死にたい〃なんて
こっちまで死にたくなる位に
引き込む湿っぽさだったから
一人二人とみんな帰って

聴き手はとうとうわたし一人
まだ歌っている
いよいよ暗く
痛みのレールを勝手に突っ走っている

その素足
どんな茨を踏んでいるの
眼には見えない血の色が滲んでいる
二つも三つも外しているシャツのボタンの内側は
少年の頃の夢で熱いはずなのに

そんなに辛いの
歌わずにはいられない失意の日々
わたしも息苦しいから
止められないスピード
少しだけ緩めて

新生児みたいに光をまぶしがる無垢な瞳が
だんだん大きく見開かれて
すでにわたしを射貫いている

いままで
なにを生きてきたのだろうわたしの
ずうっと大切にしてきた守ってきた
奥底の地図を奪い取り
四枚に引き裂きながら

新しい海
新しい混沌を引き連れて
君は
オルフェウス


詩の投稿作品・1997年


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