宗太の三年

 あるところに宗太という少年がいた。宗太は若くして寝たきりの身であった。ある朝、なかなか起きてこないので、彼の母が起こしに行ったところ、いくら呼んでも返事がなく、ゆすぶっても顔を引っぱたいても目を開けず、これは死んだかと思ったが息はしており、また、冷たくもなかったので、そのうち起きるだろうとあきらめて仕事に行った。帰ってきて、宗太のまだ寝ていることに気がついた彼の母は、あわてて夫に電話した。
「あなた、そ、宗太が……」
「なんだ、用件は手短に伝えろ」
「起きないの」
「え?」
「朝からずっと……寝たままで……」
「救急車は呼んだのか」
「……」
「おい!救急車は……あっ、切りやがった。どうなってんだ。五時から会議だってのに」
 母はぼう然としながらも、とにかく言われた通りに一一九をダイヤルして、彼を病院に運んだ。
「宗太君のご家族の方はいらっしゃいますか」
「はい」
「お母さんですね」
「はい、……あの、宗太は……」
 医者はかぶりを振って、言った。
「正直に申し上げると、私どもにも原因がわかりません。何かがきっかけで回復することも考えられますが、もしかすれば、このままということになるかもしれません」

 結局、宗太は家で面倒を見ることになった。彼の父は最初、あらゆる手段を行使して、類似する病気がないか調べたが、無駄に終わった。母は黙って介護した。ヤケクソになった父は、妻の不在を見計らって、宗太の耳元で大声を張り上げてみたり、刺激を与えればと思って腕を針で突いてみたりしたが、やはり一向に宗太は目を覚まさず、そのうち父もあきらめて静かに見守ることにした。

 それから三年経ったある日のことである。宗太は突然むっくと跳ね起き、体につながった各種のチューブを引っこ抜くと、驚きの余り腰をぬかした母を尻目に、玄関目指して突っ走り、ドアを開けて外に飛び出した。家の前の路上には、赤ん坊がよちよちと歩いており、そこに車が近づいてきていた。運転手はわき見をしている!
 あ、危ない!と近所の人が思ったその瞬間、宗太は車の前に立ちふさがり、車に向かって張り手を一発。それを静止させたのである。
 宗太はそのまま歩いて部屋に戻り、再び眠りについたとさ。
 なお、運転手は胸を打撲する軽症を負った。