コーヒーについて

 小さい頃からコーヒーが好きだった。といっても、缶コーヒーである。自分で作るのが面倒だからである。僕は毎日、祖母から百円だけもらっては、隣のお店に缶コーヒーを買いに行った。雨の日も雪の日も、熱心に通った。「ごめんくださーい」と言って店のおばさんの出てくるのを待つ。しばらく、待つ。また「ごめんくださーい」と叫ぶ。出てこない。数分、待つ。それでも出てこない場合、僕はもう一度呼んでみて、それでもなおの場合は、僕は玄関に百円玉をちょんと置いといて、勝手にコーヒーを持ってくるのであった。それで売買は成立した。
 まだ小学生だったので、甘いのが好きだった。苦いのは、文字通り、苦手であった。したがって、ジョージア(コカ・コーラ)よりも、今でもたまに見かけるベルミーコーヒー(カネボウ)というのが好きだった。しかしどんなに好きでも、自分で広告を作ろうとする輩はおるまい。僕はラジカセを使って、こんなことを録音したテープを作成した。「(缶を振る音)(プシュッとプルタブを起こす音)(キリキリッとプルタブを引っ張る音)(ゴクゴク)はぁ〜、(ゴクゴク)はぁ〜うまい、(ゴクゴク)やっぱりベルミーアメリカンタイプぅ〜」奇行もここに極まれり、である。僕は別にカネボウに貢献しようとしたわけではない。単にラジカセの録音機能で遊んでみただけだった(と思われる)。今の僕だったら、これをカネボウに送ってやっただろう!ちなみにアメリカンタイプというのは、他にユーラシアタイプだったかヨーロピアンタイプだったかもあったので、識別するためだった(と思われる)。

 中学生になっても高校生になってもベルミーを飲みつづけた私であったが、高校二年の春から一本も飲んでいない。ベルミーばかりでなく、その頃はかなり長い間コーヒーを飲まなかった。いや、飲めなかった。体の調子が悪かったのだ、非常に。そして治療のために入院し、二ヶ月近く絶食(もちろん、コーヒーは禁止である)して、ようやく主治医の先生から許可が下りたのでボス(サントリー)を飲んでみた。その日(ちょうど、十三日の金曜日)の「日記」にはこう書いてある。「ひさしぶりに coffee を口にした。BOSS のカフェ・オ・レだ。え?ベルミーじゃないのか?一応ショート缶のしかもカフェ・オ・レから始めてみようと思ったからだ。ちなみにカフェ・オ・レはコーヒーではなくコーヒー飲料だ。なんか BOSS を見ると矢沢永吉の『もうひとりの俺』を思い出す。(以下略)」しかし僕は、その後コーヒーを飲まなくなった。
 再びコーヒーを飲むようになったのは、退院して数ヶ月たった頃からである。高校二年の秋だったか。だが、それはもはやベルミーではなかった。今度はダイドーブレンドコーヒー(ダイドー)であった。にがみの良さがわかるようになったらしい。以来、ずっとダイドーブレンドばかり飲んでいる。一番気に入っているのはデミタスコーヒー(ダイドー)である。これは他のどのコーヒーにもない、特殊な感覚がある。何よりサイズが、ちょうどいい。他のコーヒーについて書くと、ジョージアはあまり飲まない。それしかない、という場合に限って飲む。昔のジョージア(西洋風の絵(家?)が描いてあった頃)のほうが香ばしかった気がする。伊藤園が最近コーヒーを作ったようだが、試しに飲んでみて、伊藤園はお茶をやってりゃあいいと思った。奇をてらっているとさえ思った。他はどれも似たり寄ったりであるが、去年「あ、これは美味い」と思ったのは、ネスカフェの赤いショート缶である(名前は忘れた)。ネスカフェのコーヒーは、もともとコーヒーの会社だけあって味の良いのが多い。それだけに、あまり売ってないのが残念である。最後に、僕は「つめた〜い」よりは「あたたか〜い」のほうが好きだ、夏でも。

 消費税が上がったら、コーヒー一本、いくらになるのかしら。