ロマネスク

ロマネスク (Romanesque) とは、幻想的な話を題材にした小説を意味する。幻想的といっても、この作品は剣と魔法が出てくるような壮大なファンタジー物ではなく、三章からなるユーモアあふれる短編小説である。全章とも日本の江戸時代の話となっているが、場所は異なっており、また主人公も別々である(ただし、完全には独立していない)。

第一章のタイトルは「仙術太郎」である。太郎は幼少より天才であった。十六になり恋をした太郎は、美男子になりたいと仙術を極めようとする。そして鳥や蛇になる法を習得し、やがてついに美男子になる法を習得したが、その結果は失敗であった。どのように失敗したかを書くと面白みが半減するので、そこは実際にお読みいただきたい。

第二章のタイトルは「喧嘩次郎兵衛」である。次郎兵衛は、人から馬鹿にされたときに「自分が喧嘩の強い男だったなら」と思って悔しがり、それから自らの肉体を鍛えだす。いや、正確には喧嘩の前のセリフを述べるところから鍛えだす。そうして日に日に強くなっていくが、強くなりすぎて凄まじい容貌になってしまったため、恐ろしくて誰もかかってこない。そして或る日、鍛えすぎた故の悲劇が訪れる。

第三章のタイトルは「嘘の三郎」である。子供の頃、なんでもないことで人を殺した三郎は、その秘密を守り抜くため、嘘に嘘を重ねていく。長じて嘘の天才となった三郎だが、或る事件を転機に「嘘のない生活をしよう」と決める。だがそれ以来、何をしても「自分は嘘をついているのではないか」という疑念にとらわれるようになってしまった。

繰り返しになるが、どの章でも作者のユーモア精神がいかんなく発揮されている。またもうひとつ共通しているのは、懸命に努力したものの、それがために挫折し、そうして自棄になるという話の流れである。理想の実現に多くの時間と労力を費やした結果、現実の世界において回復不可能な程の damage を受け、さらにその理想は、結局実現出来ずに了う。そうして、ニヒルを伴った自棄に陥る。

私としては第二章が好きだ。次郎兵衛がひとりで奇怪な修行をする様。そして誰も相手になってくれないことに地団駄を踏んでいる様が目に浮かぶようで、面白い。いや勿論、当人は真剣になって修行していたのだと思うが、傍から見ると、――つまりこうして文章として読んでみると、全くの奇行である。

発想がかなり飛躍し、無茶苦茶な感があるが、それこそ「ロマネスク」だからである。作者はいわゆる「むがしっこ(昔話)」を応用したのかも知れない。

4th November 2005