Forza Motorsport ―万人向け ★★★★★―

概要

Xbox のパワーを生かした物理シミュレーションが売りのレーシング・ゲームです。また、プレーヤーの走り方の「くせ」のようなものを記憶して再現する、高度な人工知能も話題となっています。

1, リアルだと思う

私は本物の車を運転したことがありませんので断言することはできませんが、リプレイ画面でタイヤのグリップ、掛かっている力、サスペンションの伸縮具合、タイヤの温度、車にかかる慣性力などがリアルタイムに変化していること。又、リプレイ画面には現れませんがエアロ・ダイナミクス(空力)についても計算しているとのことから、車と外界とが接する部分で生じている力学的現象について、かなりの部分でシミュレートしているものと思われます。この計算の精度は不明ですが、セッティングのわずかな変化も挙動に反映されることから、恐らくかなり高精度であると思われます。したがって、実車に相当近い走りが再現されていると考えています。

2, グラフィックスはいまいち

計算力の多くが物理シミュレートに割り当てられているようで、特にコース周囲のグラフィックスに関してはあまり綺麗ではありません。観客を見ると最もよく分かるかと思います。ただ、このゲームはあくまで「シミュレータ」として作られているため、グラフィックスについての或る程度の妥協はやむを得ないと思います。私としては、この方針には大賛成です。壁に車をこすると壁に色が付くという点だけで十分だと思います。またペイントが可能であるという点は、対戦の際に面白みを増すのではないかと思われます。
ただ、いわゆる「ゴースト」については不満があります。赤と青のスケルトンで表示されるのは綺麗だと思いますが、それと推奨ライン(後述)の色とが重なってしまうのでラインが見えず、ゴーストの表示を切って走る手間が面倒です。これならラリ・スポのようなワイヤー・フレームによる表示のほうが見やすいと思います。
サウンドに関して気付いたこととして、車によって音量がはっきり違っているという点があります。ドイツ製の有名 RR 車を乗ってから、日本の某 4WD 車を乗ると、後者のいかに静かであるかがよく分かります。

3, 豊富な車種

世界各国のメーカーの車が 230 台以上収録されており、かなり豊富です。1960 年代のクラシック・カーから、今年発売されたばかりの車まであります。車のランクは D, C, B, A, S, GT, GTS, P1 の順に高くなっていきます。S までは一般の市販車ですが、GT からは完全にレース仕様の車となります。P1 ではプロトタイプ・マシンとなって、GTS 以下とは全く加速、および減速の力が異なり、まさに次元の違う走り方を要求されます。便利だと思ったのは「検索」機能があることです。馬力や車重など複数の条件を組み合わせて探し、さらに条件に一致する車の中で、価格や発売年などのパラメータによる「並び替え」を行なうことができます。

4, 一方でコースは少ない

これは残念な点のひとつですが、コースが少ないと思います。といってもゴッサムやラリ・スポと比べた場合の話であって、サーキット・レースが中心のこのゲームでは複数の経路を作るのが困難であり、仕方の無いことかも知れません。ニュルブルクリンク北、ラグナ・セカなど実在するサーキットや公道と、架空のコースが混在しています。個人的には Point-to-Point のコース、特にヒル・クライム物をもう少し増やして欲しかったところです。

5, 調節可能な難易度

これは大きく評価したいと思う点です。これまでのレーシング・ゲームのなかには、レースをクリアするたびにコンピュータのレベルがどんどん上がっていき、最後には「楽しめない」ほどに難しくなってしまうものがありました。また初めから操作が現実的過ぎて(現実よりシビアなのかも分かりませんが)、レーシング・ゲームの初心者にとってはかなり敷居の高いものもありました。それは「マニアック」には好評だったかも知れませんが、決して万人向けではありませんでした。このゲームの難易度設定は、コンピュータの基本レベルを三段階に変更できることをはじめ、かなり細かい調節が可能になっています。それで難易度を上げれば獲得賞金が増え、下げれば減るといった関係になっていて、走りに自信の有る人も無い人も楽しめる仕組みになっています。私は標準設定から、TCS と STM を切って、ダメージを「リアル」にしています。これだけで賞金は 35% も増額されます。他にも ABS の有無、AT/MT の切り替え、燃料の減少とタイヤの磨耗、推奨ラインの表示・非表示などが設定可能です。推奨ラインの表示を有効にすると(デフォルトで有効になっています)、どこを走るべきか、また現在のスピードではグリップがどうなるか(つまりブレーキのタイミング)が道路上に色付きの三角形で表示され、しかもスピードに応じてリアルタイムに色が変化します。もちろんその通りに走ったからといって必ずしも勝てるわけではありませんが、多くの車を乗り換えなければならないこのゲームでは、かなり参考になります。

6, ゲームを進めるのが楽しい

先ほども述べたように難易度を高くすることも低くすることも可能なため、個人の実力や「性格」に合わせた進め方が可能です。また、他のレーシング・ゲームに見られる「賞金稼ぎ」がほとんど必要ありません。色々な場面でボーナス・カーが手に入るので新しい車を買う必要はあまりないし、その結果、賞金がどんどん増えていくので購入の際も楽々買うことができます。ただ、買うタイミングを間違うと面倒なことになります。私は Porsche 911 GT3 が好きで序盤のうちに全財産を投げ打って買ったものの、使用できるレースがなく、しかも他の車のパーツを買う予算も残っておらず、しばらくレベルの低いレースを走り続けることになりました(各レースは FF 専用とか、クラシック・カー専用などの条件が「必ず」付いています)。(余談:この車、現実の世界では 1500 万円します)

7, マルチリンガルだ

多言語対応となっています。当たり前のようですが、これまでは「英語」と「日本語」しかないものがほとんどでした。今回は、「ドイツ語」にすればドイツ語で表示されるし、「中国語」にすれば中国語で表示されます。それに応じて、使用される単位系も変化します(必要があれば、言語によらず単位系だけを変えることもできます)。セッティングの項目の中で「タイヤの空気圧」というものがあって、標準の「キロパスカル」では不連続な値をとるので不思議に思っていたのですが、「重量ポンド毎平方インチ」に変えると連続な値になり、世界の広さ(?)を感じました。

8, 人工知能、……でも

これについては、存在する意味が分かりません。確かに、まるでリプレイを見ているかのようにコンピュータがプレーヤーの走りを再現するのは感動的かつ驚異的です。しかし、レースで使用すると賞金から 8 割以上持って行かれるし、あくまでプレーヤーの走りを真似するだけでなので自分より速く走るわけでもなし。耐久レースは一時間もかからないし、結局、クリアはしたいがどうしても走るのが面倒だと云う以外に使う理由がありません。もう一度言いますが、技術的には確かに素晴らしいのです。ただその使い方を間違っていると思います。

総評

細かい部分を見れば不満もありますが、全体としてはかなり良い出来の、真面目なゲーム(というよりシミュレータ)だと思います。特に対象となるプレーヤーを限定しないシステムを評価したいと思います。

9th September 2005